第24話行き倒れ美少女の宣言行動

 今日も今日とて、土曜日の朝はめちゃくちゃ忙しい。読書メインで飲み物だけのお客様もいるから、本当に書籍喫茶で良かったと思う。


 親父にオーダーをしたり、棚に入れたばかりの新刊ラノベをお客様に渡したり、キッチンのフォローに入ったりと勤しんだ。


「ありがとうございました、次のお客様」


 呼ぶと扉の隣で待っていた女性客が俺の所に倒れ込みポフッと全体重を預け寄りかかられた。

 安否確認を取ろうと声をかけようとしたら、


「文くんだぁ」


 と、隠った声が俺の胸に顔を埋める女性客の所から聞こえた。最近出会ってよく聞く声だ。


「い、一葉か?」

「ふみゅ」


 栗色の髪を下の方で結んだツインテールが大人しい雰囲気を醸し出してて分からなかった。

 新鮮で可愛い。


 それより、今はお昼だ。いつから並んでたのか、俺に寄りかかって行き倒れるに至るまで並んでたのは確実だ。


「一旦帰って昼飯食ってくれば良かったのに」

「文くんのが良い」


 それお母さん泣くぞ。

 でも、嬉しい。


「まあ、よく頑張ったな。とりあえず控え室に連れていくぞ」

「うん……文くん」

「ん?」

「いつもありがとう」


 埋める顔を上げて覗き込む形で笑顔を向けた。撫でたくなる笑顔だな。

 けど、今は抑えよう。

 一葉の後ろに並んでた三名の女性客を一葉をおぶりながら案内してから控え室に連れていった。


「……はじゅかしかった」

「それは本当にごめん。でも、待たせるわけにもいかないから…いやこれは言い訳だな」

「……やっぱり優しいね文くん」

「そうか?」

「そうです…えへ」

「いきなりどうした?」

「文くんといると落ち着くなぁって。なのでちょっと来て」


 手招き一葉さんに招かれて、俺は一葉の隣にやって来た。

 すると、一葉は立ち上がり俺の肩をいきなり掴んだ。


「ふっふっふ、掛かったな」

「貴様何を!?」

「チェンジー!!」


 そう言って、ちょこんと俺をさっきまで一葉が座っていた席に座らされた。


「は?え?どうゆうことだ?」

「文くんパパさん、後でお金払うのでキッチン借りますね」


「存分に使ってくれ」

「では!早速、文くんに手料理振る舞いまーす」

「手料理とな」


 驚いているとお客様達から「おお!」と拍手喝采が上がる。

 一葉も恥じらいながらどうもどうもとぎこちなく頭を下げまくる。


 それから一葉はせっせと懸命に手を動かして調理を進めていった。


「ど、どうぞ」


 出てきたのはナポリタンだ。

 見た目はナポリタンだ。味はこれからだ 。


「味は違うけど……その、出会いの料理がナポリタン、だから。お、おあがりよ!」

「じゃあ、いただきます」


 俺はフォークを手にくるくるとナポリタンを巻き付けて口に運んだ。


「うまい!」

「ホント!?」

「ああ、世辞なく美味しいよ」

「やったぁ!」


 両手を上にあげて一葉はぴょんぴょんはしゃぎ出す。その時、一葉の指先が絆創膏だらけなのを発見した。


 俺はあれ?と思った。

 ピザは上手くやってたのに、生地だけ作れるとか斜めな料理スキルだ。

 怪しいな。


「一葉、作ってくれたのは嬉しいが、何を企んでるんだ?」

「そこに気付くか。バレてはしかない」


「ふふふ…えへへ」と、コロコロと笑顔を変える。

 何だこの対城宝具レベルのごとき聖剣の光は。


「言ったでしょ。文くんに相応しい女の子になるって。その初めとして胃袋を掴みに来ました!」


 とっくに好きだよ。

 ちくしょ、素直に言ってくるのがくそ可愛い。


「ねぇねぇねぇ、掴まれた掴まれちゃった?教えて欲しいなぁ〜。文くんの心情教えて欲しいなぁ」


 くるくるくるくると回りながら一葉は和やかに聞いてくる。


 掴みに来た?

 嘘つけ、鷲掴みにされてるぞ俺は!!

 お前の虜だよ。そのせいでいちいち言動が可愛いと感じてしまってんの!


 素直に言うべきか、それともはぐらかすべきかと悩んだ結果、


「……つ、掴まれたんじゃねぇの」


 男なのにどっち付かずの曖昧な言葉が、ぎこちないガチガチ感と混ざった。

 そんな俺を見て一葉が頬を膨らました口を手で抑えて笑いを耐えていらっしゃる。


「笑うならいっそ笑ってくれた方が良いんだけど」

「あはははははは、あひ、あひひひゃは…〜〜〜〜〜あははは。文くんがいきなりロボットみたいでな……って…あは…」


 一葉さんやちと笑いすぎやしませんか?


「はぁ〜……照れたの?恥ずかしいの?」

「照れたの、恥ずかしいの」

「掴みはオーケー?」

「掴みはオーケー」

「やったね」


 一葉は「イェーイ!」とにこにことピースをする。


「でも、まだまだだよ。鷲掴みにするのでお覚悟!」


 その時わしはもう骨抜きされとるんじゃなかろうか。

 とりあえず、一葉のナポリタンを食べよう。

 俺が口に運ぼうとした瞬間、可愛いらしい音が鳴った。


「文くんヘルプ、オーバーリミット」


 突っ伏しながら一葉が言った。

 自分が空腹なのに作ってくれたことが嬉しい。


「一葉」

「ふみゅ」

「あーん」

「ほへ!?…な…なな!」

「ほい、早くしろ……俺だって恥ずかしいから」

「………うん」


 一葉があーんと開ける口に俺は一葉作のナポリタンを入れた。


「えへへ、我ながら良い出来だぜ」


 顔真っ赤にしていうセリフじゃないな。

 可愛いから俺は得だ。


「もう一口いるか?」

「うぅぅ……うん…」


 大人しモードで体をもじもじとしながら一葉はコクンと頷いてナポリタンを口に運んだ。


 何だこの生き物は。


「さて、そろそろ一葉を客に戻すか。親父」

「下準備は出来てるぞ」


 仕事早いな。流石だ。


「手伝うから一葉は席にカムバックな」

「ふみゅ〜」


 キッチンに回り一葉をお姫様抱っこして席に座らした。

 やっぱり習慣になってきたと感じるのは当たり前だよな。


「さて、作るか」


 直後、一葉から「くぅううう〜」と音が鳴った。


「一葉さん、ナポリタン二口食べたよね」

「私の食欲をなめたらいかんぜよ〜」

「そこで偉人になるな」

「えへへ〜」

「誉めとらん誉めとらん」


 結局今日も一葉は行き倒れ美少女だった。


 ―――――――

『行き倒れ美少女以下略』帰還!

 と、言いたいところですが微妙なところです。


 休載宣言後も読んでくださった方々いて嬉しかったです。

 ありがとうございます。

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