第23話甘えん坊の行き倒れ親友メイド

 さて、一葉に対しての気持ちを自覚してしまった俺だが、告げない決意を固するためにも、色々振り返っていくか。


 一週間程前に店の外で行き倒れていた佐倉一葉さくらいちはは出会った前日に引っ越してきて、出会った翌日に転校生として俺の学校に来た行き倒れ美少女だ。


 明るくて自由な感じだけど、優しく気遣いができてる。

 けど、一葉が出会った日の気持ちを教えてくれて、何かを無理してるかもと思う。

 その何か俺が取り除く事が出来たら良いな。


「だけど、決意が揺らいでしまいそうだ」

「ご主人様ぁご主人様ぁ、なでなでしてぇ」


 俺は今、危機的状況で大変困っている。

 俺の腰に抱き付いて甘い声で親友が甘えてくるのだ。メイド姿で。


「早くご主人様ぁ、なでなでしてくださいぃ。じゃないともっともぉーっと、密着したくなるよ?」

「……これで良いか?」

「えへへぇ」


 今日も行き倒れて美少女化してたのに、復活したら、いきなり甘えてくるんだから。

 俺の心配する気持ちを杞憂にさせやがって。


「心配を返せこの美少女メイドー!」


 優しさは終わりだ。カチューシャとってワシャワシャしてやるぜ。


「ヒャー!」

「………」


 絶叫系アトラクションのような悲鳴を上げ、楽しそうな表情でされるがままの一葉。

 だったら、くすぐりだ。


「仕置きを幸福に思う悪いメイドめ」

「ダメだよご主人様!それは流石にセクハラです。ご主人様にこんな事はさせられません」

「仕置きを楽しむからだろ」

「メイドにとってご主人様からの仕置きは至福の一時」

「名言ぽく言ってるけど変態だ変態メイドだ」


 顔が徐々に赤く染まっていき、一葉はプイッとそっぽ向く。


「変態じゃないやい!寂しいだけですもん」


 唐突に一葉が俺の手を握って来た。


「構って、構わないと親友美少女メイド死んじゃうよ」

「ウサギは寂しいと死んじゃうよみたいに言うなよ。あと、ウサギはそんなので死なん」

「なら、死ぬときはご主人様も一緒」

「笑いながら怖いこと言うな!ヤンなメイドかお前は」

「そこはデレをつけてください」

「可愛い感じに言ってるけど尚怖いわ」

「ご主人様ぁ接客接客ぅ」


 一葉に腕を組まれながら俺は接客を続ける。

 今日の一葉は本当にどうしたんだよ。

 俺何かした?全然覚えがないんだけど。


 何か本読みながら、ニヤニヤお客様は見てるし。いやそれは変わらないか。つか、店員がこんな接客してたら注意するだろ普通は。まさか、書籍喫茶だから気にしないのか。


 と、一旦接客を終えてキッチンのそばで待機すると、一葉が正面に立って撫でてと頭を持ってきた。


「甘えすぎ」

「ご主人様は甘えん坊のメイドは嫌いですか?お払い箱?」

「嫌い…じゃない。俺は…愛嬌あって、良いと思う」

「本当ですかぁ〜?」

「……正直なところ困ってます」


 構ってもらえるのは嬉しいけど、こんなに甘えるって…そうか何かあったのか。


「一葉何かあったのか?相談乗るぞ」


 暫く頭を持ってきた状態のまま黙り込んでいたら、突然一葉は腕を背中に回して俺を抱き締めた。

 押し付けられる柔らかい二つの大双丘、髪や服から漂う甘い香りが鼻腔をくすぐり、幸福感で満たされていると、


「文くんも抱き締めて」

「え?あ…え、あ…うん」


 不意に名前で呼ばれて戸惑いながら、抱き締める。俺達は店の中で何をしてるのやら。

 そんな事も気にならないほどに、今日で三回目のハグの中でも疑問に思う。

 いや、腕を組まれた時、お姫様抱っこしてるときもそうだ。

 血色は良いのに異様に肌が冷たい。


「文くんもっと」

「こ、これくらいか?」

「もっともっと、前メイドになった時みたいにぎゅって」


 求めるままに一葉を思うままに密着する程に抱き締めた。

 すると、一葉は顔を俺の胸に埋めてきた。


「壊して、壊して私。壊すくらいに抱き締めて」

「……でも」


 これは何かあったのかではなくて、俺が感じた何かある事に関係があるのか。


 それなら、力になりたい。


「いいんだな」

「うん……お願い。遠慮しないでね」


 抱き締めるのに余りに真剣な雰囲気でお客様も見守るような目だ。

 俺は深く息を吸って隙間なく、心臓も、脈も、全ての鼓動が一つになるんじゃないかってくらいに本気で一葉の思いに答えて、華奢な一葉を抱き締めた。

 一葉もそれに答えるように抱き締め返してくれた。


「文くん…文くん…」


 名前を何度も呼ぶ度に抱き締める力は微力ながら強まっていき、俺の理性が頂点に逝った瞬間、一葉が「文くん」と力強く呼び俺を真っ直ぐ、何かを決意した瞳で見つめた。


「私ね。文くんに私を相応しいって想ってくれるようにする」


 頭が真っ白な世界になって、無意識に腕の力を抜いていた。


「相応しいって……ど、どうゆう」

「内緒。でもその為にあまえることにしたの」

「甘えるって?」

「文くんなら大丈夫だと思ったから」

「何が?」

「えへへ、今は秘密」


 いずれ話してくれるという事か。


 って、待て待て待て待て。訳分からん。この展開に俺はどうしたらいいの。


 まともな思考ご出来ない程に動揺した。

 心の準備がなってしてない。

 そんな事露知らずに、一葉はドヤ顔を決め、お客様は拍手してる。


 本当に何が何だか。




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