第21話引っ越した日(一話)の行き倒れ美少女〜行き倒れ美少女〜《一葉視点》

 引っ越したのは1ヶ月後。引きこもってから8ヶ月。春から夏に変わり始める頃だね。


 引っ越しの時、当然外に出て耐えられるわけがなかった。

 ならば私はどうやって引っ越してきたか。聞いて驚け!旅行ケースの中に入ってである。

 腰めちゃくちゃ痛かったよ。


 私の新しい部屋には家具やゲーム機が入ったダンボール箱も既に運び込まれてて、やるのは整理整頓するだけだった。

 お陰で漫画も、ゲームも、アニメも見れなかった。


 翌日。

 引っ越してどこかも知らない家で住むという実感が遅れて現れて不安と怖さで堪らなくて、少しで良いから安心が欲しい。

 そう思っていたら、いつの間にか外まで出てた。当然、体は震えたし、外へ出ると呼吸が辛かった。


 まあでも、早い時間なら人も殆どいないから、大丈夫かなと甘くみてた。

 

 そして、いつの間にか私はどこかで行き倒れた。


 目が覚めた時、知らない天井があって、良い匂いがした。


「起きたか?」


 知らない声。

 怖いけど、お礼は言いたい。ぼーっとしながら私は上体を起こした。


 起き上がると本棚がいっぱいあって、色々な本が収められてるのが目に入った。

 内装的に喫茶店かな。


「もう少し待ってろ。ナポリタンもう出来るから」


 やっぱり怖い

 声をかけられてビクッとなって体が動かなくなった。


「…えっと」

「お腹、空いてるんだろ」

「…うん」


 な、何で知ってるの!?何か言ったのかな私ぃ〜。だとしたら、恥ずかしい。


 そういえばさっきナポリタンって言ってたような…良い匂いするし、もしかして、私の為に作ってくれてるの?


 何で?


「ほい、食え」


 私の前にナポリタンが置かれた。

 匂いが…食欲をそそって来る。食べたい。

 お腹、めちゃくちゃ空いてる。


「……いいの?」


 そこで初めて俯いてた顔をあげて作ってくれた人の顔を見た。

 私と同じくらいの歳の男の子。

 男の子は「遠慮はするな」と微笑んで言った。


 やったぁ!

 私は手を合わせて「……い、いただきます」と言ってナポリタンをくるくる巻いて口に運んだ。


「ん〜〜〜〜〜〜!」


 今のナポリタンってちょっと手を加えたりしたものが多い。でもこれはシンプルにケチャップだけのザ・ナポリタンって味。

 黙々と食べてあっという間に完食。


「ごちそうさまでした!」

「お粗末様。じゃあ皿とフォーク洗うからくれないか」

「…うん」

「おかわりいるか?」

「…え?」

「まだ空いてるなら作ってやるよ」


 家族やたった一人の友達の優しさは苦しかった。なのに、知らない男の子の優しさに嬉しさが溢れて満たされた。


 もしかして、求めてた?

 家族でも友達でもなく、本当に私を知らない人が助けてくれる事を無意識に、だから、外に出たのかな?


 でも、ダメだよ。頼った時、私はその人を不幸にするもん。

 だから、今日だけこの気持ちに浸ろう。


「……お、お願いします」


 男の子はナポリタンをまた作ってくれた。

 私は食べる度に優しさを感じた。


「なあ、何で路上で行き倒れてたんだ?朝飯食わずか?」

「…えっと……」

「いや、言いたくないなら良いんだ。気になっただけだし」


 助けてもらって話さないのはダメだよね。

 行き倒れた経緯だけを話せば、うん。


「ううん。助けてもらったのに、教えないのはダメだと思う……私、昨日この近くに引っ越してきて朝早くに探索しようと思って出てきたんだけど…道に迷って帰れなくなって」


 嘘は言ってないよ、省いただけで。


「スマホは?マップアプリあるだろ」


 そっかスマホ使えば良かったんだ。

 あれ?ポッケに無い。忘れた?

 えっと、えっと、あれ?何で動揺してるんだろぉ。

 そうだ、テンション上げれば動揺なんて。


「忘れたんだな」

「イエス!エクセレント!」

「イエス!じゃねぇ」

「はい」


 うぅぅ、失敗したぁ。

 人とまともに話すなんて久しぶりだから。テンションが分からないよぉ。

 それにどこか分からないから帰れないし、どうしよう。


「送ってやるから、住所教えてくれ」

「え?いいいいいいいよ。そこまでしてもらうのは悪いよ」


 全力で拒否した。

 嬉しいけど、迷惑を掛けたくない。

 

「迷ったんだろ。どうやって帰るんだ?」

「うっ」

「帰れなくて良いのか」


 それはダメ、部屋は私を守る担い手。


「それは……お願いします」

「よろしい。最初から遠慮すんな。ナポリタン食っておいて今更だろ」


 ……何でこの人は、見ず知らずの私を助けてくれるの。知りたい。

 

「……そうだね。ありがとう。えっと」


 名前を知らないから呼ぶのに困っちゃったけど、直ぐに教えてくれた。


 夏目文なつめふみ

 それが私を助けてくれた男の子の名前。

 女の子みたいで可愛い。

 私と同じ高校二年生。


 今更ながら二年生になりました。不正はしてないからね。ちゃんと進級試験やったからね。


「それで君は?」

「佐倉、佐倉一葉だよ。よろしく文くん」

「いきなり下呼び」


 図々しいよね。でも、私にはしっくりくる。

 まあ、明日からは会うこともないだろうし。記念として?覚えておこっかなって。


「……ダメ…かな?」

「駄目ではない。いきなりで困惑しただけだ」


 断られるって思った私自身にちょっと後悔した。なのに嬉しい。この気持ちをどうすれば良いんだろう。


 う~ん、この気持ちに任せてみる、とか?


「ありがとう。文くんも一葉って読んで」

「いや、俺は良いよ。俺的に佐倉が合ってる」

「ダメですぅ。文くんと私は対等な立場なんだから一葉じゃないとダメ」


 私は気持ちに任せてしまった事で至近距離まで文くんにグイッと近づいちゃった。

 どどど、どうし


「佐倉さん」

「一葉!って何でランク下がってるの!?」


 駄々ると何故かえっちぃ視線を一瞬感じた。

 まあ文くんも男の子だもんね。

 ってそこは問題じゃないよ!

 だって美少女が目の前にいたら見て当然、だもん。


「こうなったら、ランクアップ魔法発動!」

「何だと!?」


 文くんは遊戯帝みたく対応してくれた。

 文くんはノリが良いと。

 何か楽しくなってきた。このまま行こ。


「お、ノリ良いねぇ。私は文くんの私への一人称を対象に発動。これにより文くんの一人称は佐倉に戻る」

「どうやって?」

「……………」


 さ、さぁ?どうやってでしょう?

 うぅぅ、勢いに任せすぎちゃった。

 しょぼんとしていると文くんが笑った。笑われた。

 でも、お陰で一葉って呼んでくれた。


 私はブイサインを文くんに向けた。

 楽しい。


「とにかく一葉早く住所教えてくれ!」

「ほへ?何で?」


 とにかくっていうのがよく分からないけど、文くんが焦せってる。

 そっか、この喫茶店まだ開店前なんだ。それで、もうすぐ開店だから急がないと間に合わないんだね。


「時間!今7時半だ。こんな時間までいなかった流石に怒られるだろ」

「嘘!?本当だ。行きながら教える」

「行きながらだと迷うじゃん」

「そうじゃん!」


 そもそも引きこもった私が外に出るなんて思ってもいないから、逆に帰ったら怒られるかも!!

 いや、でも帰る。外にいたら気持ち悪……あれ?そういえば今、気持ち悪くない。


 何でだろ?楽しいから?文くん、だから?

 分からない。

 知りたい。

 私は疑問を抱きながら住所を教えると、すぐに文くんは道案内をしてくれた。


 到着直ぐ、お母さんが出てきた瞬間めちゃくちゃ怒られて、家に入るとめちゃくちゃ心配されて驚いてた。


 でも、本当に何で文くんは私を助けてくれたんだろ。

 やましい事を考えてるわけでもなさそう。

 ……明日、学校行ってみよう、かな。

 初対面の文くんで大丈夫なんだもん。


 でも、そんな甘くないよね。

 それでも確かめるために行こう。

 あと、明日文くんにお礼もしたいし喫茶店にも行かないと。


 これが私と文くんの出会い。

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