第15話いらっしゃいませ。行き倒れ美少女は今日も今日とて喫茶店に足運ぶ

「文くん、頑張った…ぜ」


 一葉は今日も今日とて行き倒れた。

 今日は、店内側の扉前。


 俺は行き倒れ美少女一葉の元に向かった。


「一葉大丈夫かぁ」

「Zzz〜」


 行き倒れて寝るという、新パターンが再び降臨した。


「寝るな」

「ふがっ」


 俺はぺしっと軽く美少女に蹴りを入れてから、もう恒例みたいなお姫様抱っこ茶化し付きでカウンター席に座らせた。


「コーヒーゼリーとナポリタン」

「今日はデザートありか」

「うん。ちなみに遠慮してます」

「…あ、おう。土曜日のやつのを見たら分かるよ」

「へぇ……限界」

「少々お待ちを」


 俺はナポリタンを作り、コーヒーゼリーを皿に盛り付け、一葉に出す。


「いただきます」


 今日も一葉は美味しそうに食べていき、〆にコーヒーゼリーを食べ、半分くらいになったときに一葉は一旦手を止めた。


「……文くん、コーヒーゼリーの生クリームって追加できる?」

「できるぞ。ただし、追加したときはプラス料金はもらうからな」

「じゃあ、最初から多めで注文してたら?」

「元々の料金」

「えええ言ってよぉ」


 ぶぅ、とちょっと不機嫌な顔になる。


「メニュー表に書いてるぞ」

「ほへ?……あ、本当だ、書いてる」

「次は最初から生クリーム多めで頼めるだろ。はい生クリーム」

「うん。ありがとう文くん」


 ニコリと微笑んでお礼を言ったあと、追加した生クリームと一緒にコーヒーゼリーを完食して愉悦に浸りながら食べていく。

 一葉の食べっぷりは完食後も見てて飽きない。


「ごちそうさま」

「いつもありがとうございます。それよりも行き倒れて寝るなよ」

「いやー、居心地よくって何か寝ちゃった」

「寝るほどか」

「だって、料理は美味しいし、色んな本読めるし、まあ私はまだ読んでないけど、何より文くんと話せるし」


 まるで自分の自慢話みたいに話す顔はキラキラしていて可愛い。

 俺は恥ずかしい。


「文くん顔真っ赤。可愛い」

「ば、茶化すなよ」

「だって本当に可愛いって思ったんだもん」


 どう返したら困惑してしまい、言葉を失った。

 一葉はそんな様子を「可愛い可愛い」と楽しみながら眺める。


「そ、そういえば、今日休み時間どこ行ってたんだ?」

「会いに来てくれてたの!?」

「まあ、同じ高校だってカミングアウトしたしな」


「ふふ、私もね会いに行こうと思って向かったんだ。でも、知らないの気づいて全教室探したけどいないから、最終的に学校中探したよ」

「それは…すまん。その時俺も学校中探してた」

「へぇ、結果お互いすれ違いだったわけですかぁ」


 にへらぁとしたゆるゆるな笑顔で一葉は言う。可愛いな。


 嬉しいのだろうけど、すれ違ってるのに何が嬉しいんだろうな。

 俺は見つからなくてちょっと憂鬱になったのに。


「でもね、お陰で学校探検出来たよ」

「学校案内なかったのか?」

「あったよ。けど場所だけで、案内中私の事ばっかり聞いてきて」


 嫌なこと思い出させてしまったようでぷくぅと不満な表情に変わった。


「なら明日案内、いやでも今日探検…」

「是非ともお願い致す」

「しょ、承知した」


 一葉は「よし、やった」と左手を握る。


「それじゃあ文くんお昼休みに案内お願いします」

「放課後でも良いぞ」

「駄目だよ。ここあるのに」

「そうか?じゃあ昼休みにするか」

「うん」


「夏目くん、ミルクレープお願い」

「分かりました」

「ごめんね会話中」

「いや、それはこっちじゃ?」


 紅葉さんは首を横に振る。


「それが、佐倉ちゃんと夏目くんの会話と一緒に読書と食事しに来るお客さんが増えてるのよ」

「「なんで!?」」

「見てて楽しいからね。私もそうだし。だから殆ど店長に注文送ってるし、こっそり私に注文を頼むお客さんがいるんだよ」


 それでこんな一葉と話してるのに注文の声が来ないのか。


 ちょっと疑わしくてお客様を見渡すと打ち合わせしたかのように一斉に頷いた。

 そのあと「飽きないよね」、「本と食事プラス二人の会話」、「私達が来たときからだから二人の会話あってこそだよね」という答えがここ最近来店するお客様から返ってきた。


 また「美少女ちゃんきてから文がよくしゃべるよな」、「文ちゃんが同年代と会話してるのなんてないものね」など、常連客の人達からはそんな声が返ってきた。


「何か恥ずかしいね。でも何か嬉しい」

「だな、恥ずかしいけど。……ミルクレープ作ってくるな」

「うん」


 俺はすぐにミルクレープを作り紅葉さんに渡した。


「ごゆっくり」(全員)

「はいどうも、ありがとうございます!」


「文くん」

「どうした?」

「……えっと…ごめん!私もう無理だよぉ」


 と言って真っ赤に顔をしながら、一葉は店を出ていった。

 直後、お客達は残念そうな顔で俺を見た。


 あんたらが茶化すからだろぉ!!


 追伸


 仕事放棄してでも家に戻りたかった。


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