第10話いらっしゃいませ。行き倒れ美少女と…お泊まり!?夜・お泊まりその2

 今俺達はリビングにいて、一葉はリビングを見渡している。


「文くんの家、広いね」


 そう、俺の家は三人暮らしにしてはそこそこ広い。

 理由はキッチンにある。母さんが出張販売になる前はパンは家のキッチンで作っていた。

 だから一般的な家だけど、キッチンが小さなアイランドキッチンで更にレンガ釜まであり、業務用オーブンまであって、キッチンだけ別空間となった。


「まあな、ゆっくりしてくら…」


 噛んだぁ!


「ねぇ文くんドキドキしてる?」


 手を後ろに一葉が下から覗き込んで上目遣いで聞いてくる。


「そ、それはするよ。初めて泊めるのが可愛い美少女なんだから」

「あ、それって私じゃなくても良いってこと?」


 そう言って一葉はむすぅと不貞腐れた表情でジッと見てくる。


「馬鹿言うな!あったとしても、俺は一葉で良かったって思ってる」

「……そうだよね。文くん、友達私しかいないんだよね」

「いや、男友達はいるぞ。卒業後、全然あってないし、友達って言えるか分からんが」

「えーなら一緒じゃん」


 おいおい。何気にさらっと酷いこと言ったぞ一葉さん。

 でも、確かに同じ。


「一葉、晩飯まだ早いけど何食べたいとかあるか?」

「お、よくぞ聞いてくれた、私はピザが食べたい。それもピッツァ、ナポリ、ローマで」

「王道全種類かよ。まあ生地は三種あるから良いか。だがそれなら、トッピングも忠実にして美味いのを作る。ピッツァは大体二種、ナポリの具は原則二種でローマは豊富に。そもそもピッツァの生地部分、パンのような物は数千年前から作られてて、具材を乗せ始めたのは1500年頃…」

「何か熱く語りだした。え?これ長々と聞かされるパターン!?」

「聞いているか佐倉一葉!」

「イ、イエッサー!」

「ナポリの生地が厚いのは生地そのものを楽しんでもらう為に………」


「分かった分かったから帰ってきてよ、文くーん!」


 一葉に必死にしがみつかれて俺は我に返った。

 何と、長々と自分の預り知らぬ所で長々と他にシチリア風だのフィレンツェ風はナポリとローマの間だのと熱く語ってたらしい。

 俺こんなピザ熱く語るやつだっけ?と疑問に思った。

 俺は一息吐いた。


「ごめん、取り乱した」

「凄い取り乱してたね」

「本当にごめん」

「これだけ聞かされたんだから、文くん責任取ってね♪」

「勿論、美味しいの…」

「そうじゃなくて、私も一緒に作ってみたくなった。だから作りたい♪」

「なら美味いの作るぞ」

「おぉ!」


 そして、釜の温度を上げながら何をトッピングするかを決め、生地を切り分け、生地の伸ばし方を教えながら俺と一葉はピザを作り始めた。色んなピザを作ったい事になり、サイズは11センチくらいのハーフサイズ。


「文くんはあのくるくるってやつできないの?」

「出来ないなぁ」

「回して作ってみたいねぇ」

「みたいなぁ」


 練習してみるかな、なんて俺は思いながら麺棒で生地を伸ばした生地が完成した。

 ハーフサイズの三種の生地を二人で一枚ずつ作り計6枚完成。ピッツァの一枚は無難にマルゲリータ、ナポリはダブルチーズ、ローマは生地がカリッと仕上がるからシーフードと王道系にした。もう一枚の方はデザートピザとかフルーツピザ等創作系で攻めてみるので後でトッピング。


「よし、この熱くなった釜にこのパーラーっていう道具で生地を素早く一枚いれるんだ」


 一回やって見せると一葉がやりたそうな表情になった。


「やってみるか?」

「やるやる!」


 けど、一葉には少し重たいようで持ち上げて維持するのが精一杯で顔を赤くしていく。

 それでも諦めずやる姿を見て力を貸したくなった。


「ふ、文くん?」

「しっかり持っとけよ」

「うん……温かいね」

「いや、熱いだろ釜」

「う、うんそうだよね…はは」


 まだまだ一葉のことは分からないけど、異常に喜んだり、いきなりツンとなったりと全く分からない時があるな。

 どれも最終的に可愛くなるんだけど。


「い、いくよ文くん」

「え、何が?」

「二人のこの手が真っ赤に燃える!」

「「美味いピザを焼けと轟叫ぶ!」」

「「石破ピザ生地天焼拳!!」」


 シュ


「やったぁ!上手く奥の方に入ったよ!」


 その場でぴょんぴょん跳び跳ねて一葉は大喜びである。そういえば何で打ち合わせ無しにハモれたんだ?

 まあ良いか。というかあの叫び……いや必要だったんだきっと。


「一葉そんなに熱かったのか?顔赤いぞ」

「う、うん熱かった」

「水分とッとけよ」

「うん」

「後は均等に熱がいくように何回かパーラーで生地を回す」

「了解でありまーす♪」


 その間ずっと、俺と一葉は生地が出来上がるまで取り憑かれたように眺めていた。


「こうやって眺めるの俺好きだなぁ」

「私も…何かずっと見てたくなるね」

「そしたら焦げるな」

「ホントだね♪」


 互いに釜をジッと見つめながら笑いあった。


「そろそろ、パーラーで回すか」


 パーラーで生地を回している最中に俺は一葉に話しかけた。


「なあ一葉、毎日店来るんだったら、いっそ働かないか?」

「うーん…楽しそうだけど、お断り」

「即答か」

「だって働いたら、文くんとはいられるけど、余り、お話しできなくなるから。私は文くんとお話しながら一緒にいたいの。お客としてきたら、文くんが調理中とか接客待ちの時に話できるもん」

「そっか」


 嬉しかったけど、ちょっと残念な気持ちにだった。

 それから少ししてピザが出来上がった。


「「おぉ!」」

「文くん出来『きゅるるる〜』…」

「それでは、実食!」

「あはは♪知ってるその顔芸。おかげでしただよね」

「あれ好きで、終わってから未だに寂しいんだよ」

「全部美味しそうだったよね」

「食欲旺盛だな、改めて実食!」

「あははは、やめてよ…文くん!あははは」


 食の姫様は大変ご機嫌だ。

 それから早速食べたピザの出来は良く、チーズは程よく伸び、マルゲリータはバジル(市販ビンに入ったの乾燥ものだけど)の香りが引き立って美味かった。創作系の生地も次々に焼いて、親父の分を残しつつ、二人で見事に平らげた。半分以上一葉だったけど。

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