第9話いらっしゃいませ。行き倒れ美少女と……お泊まり!? 夜・お泊まり編その1

「5時だ。一葉、俺達は先にあがり」

「了解、文くん」


 午後は何ともゆったりした感じだった。まあ、注文が多かったものの無事に終わった。


 俺と一葉は親父と紅葉さんに挨拶をしてから控え室の方に向かった。


「お疲れ、一葉」

「お疲れ、文くん。じゃあ、着替えよっか」

「ちょっとステイ」

「私、犬じゃないよ」

「一葉犬か……可愛いかもな」

「な――っ!か」


 突然の感想、しかも真剣なトーンで聞き、一葉は真っ赤になった。


「い、いきなり、そんな事言われても、返しに困るよ文くん」

「いや、だって想像したら可愛かったからさ」

「ぅ〜〜っ!」


 一葉はどうしたら良いか視線を泳がせ始めた。面白い。


「文くんってほ、他の女の子にも、こ、こんな誑し言ってるの?」

「た、誑し」

「そうだよ」

「一葉だけだし、本当に可愛いって想ったから」


 そもそも、女友達いないしな。身近な知り合いってバイトの紅葉さんくらいか?


「も…えっと、え…あう」


 いつもの雰囲気に戻そうと考える一葉だったが諦めたのか顔を真っ赤にしたまま指をいじりながら素直にこう言った。


「……ありがとう」


 それがめちゃんこ可愛い。理性可笑しくなりそうだ。


「そろそろ着替えよ」

「そうだな、じゃあ俺、部屋で着替えるから」

「ここで着替えないの?」

「着替えるか!!」

「仕切りあるよ」

「音が丸聞こえになる。また後で迎えに来るから」

「…気遣ってくれてるのは嬉しい。けど、意気地無し」


 一葉は去り際にぼそっ呟いた。

 何でそんな事を言うのかは分からないけど、これは自制選択した俺の方が正しい。正しいよな?

 でも、何故か悔しい気持ちになるのは何でだ。


「…あのね…私、文くんいると安心する」


 そんな事を言われたら断れないじゃねぇか。


「分かった。仕切りちゃんとしろよ」

「うん!ありがとう文く〜ん」


 直後、一葉は俺の背中に飛び付くように抱きしめてきた。


 密着されて背中に一葉の手やら腕やらの柔らかい感触が伝わってくる。特に胸!

 弾力あって、でも柔らかい。

 ヤバい心臓のドキドキが止まらない。時間が経つ度に高鳴りそうだ。

 早く離れないとどうにかなりそうだ。


 一葉は友達だ。

 親友だ。

 どうにかなっちゃいけないだろ。

 そうだろ、夏目文!


 だから、俺を呼べ、文〜。


「俺、参上!」

「びっくりした。何タロウなの」

「俺はフミタロウだ」

「……まんまじゃん!」


 一瞬呆然とした一葉の隙を狙ってスッと離れ何とか脱出に成功。

 ありがとうフミタロウ。


「着替えるぞ」

「うん。あ、文くん、晩御飯は文くん作るの?」

「お楽しみな」

「うむ、楽しみにしておくぞ」


 一葉には奥を使ってもらい仕切りで控え室を半分にした。俺は服を脱いで着替えていく。

 その瞬間、


 パサ、シュル

 と、服の落ちる音がした。

 それは一葉も着替えを始めた事を意味する。

 ベストを下ろし、シャツを脱いで、エプロンを外して、ストレッチパンツを脱いで、服越しでも括れた腰からヒップライン、そして、あの豊満な胸までが下着姿となってより鮮明に…て、アホかぁぁぁ!何を想像してるんだよ俺は駄目だろ。これ完全にアウト。

 友人の下着姿想像するとかやっちゃいけないだろ。


 ガンッ!


 冷静さを取り戻すため、俺はロッカーに頭をと打ち付けた。


「文くん、どうしたの!?」

「な、何でもない大丈夫」

「そう?それより着替え終わった?」

「おう…もう、良いぞ」


 仕切りを解除して着替え終えた一葉が出てきた。


「お、文くん顔真っ赤、どうしたどうした?もしかして着替え中私の下着姿とか想像した?」

「なっ、んなわけないでしょうが」

「うっそだぁ、顔更に赤くしたもん。照れてる?照れてる♪」

「て、照れてないって!」

「必死になるのは図星のご定番だよ。素直になれよ〜ほれほれー」


 ニヤニヤしながら真っ赤になっているという頬をつっついてくる。

 また、楽しんでやがる。

 この絡み、鬱陶しいのに可愛いって気持ちが邪魔をする。だから…何か憎めない。

 にしても勘が良いなぁ。


「そ、それより、晩御飯何が良い。足りないものは買いにいくから遠慮するな」

「文くんやる気、誤魔化し?」

「やる気ですよ。遊びに行ったりはしたけど泊まったり泊めたりは……初めてなんだ」

「ほぉ、私が初めてのお泊まり1号かぁ。讃えよ讃えよ」


 何故か威張って胸を張る、一葉。

 たゆんと揺れるこちらさん、大変宜しゅうございます。こっちを讃えるか。


「文くん、目つきがまたエロいよ」

「す、すまん」

「見るなら堂々と見よ」

「な…!」


 再び胸を張る一葉。でもほんと…


「ただし、料金をいただくぜ」


 変なところでカード固いよな。

 目線に気を付けよう、そう俺は心のなかで今決意した。


 でもこれだけは言わせてくれ、男が女の子の胸を見てしまうのは、そこに胸があるからだぁ。


「て、変態じゃん!」

「いきなり何!?」

「何でもない…ごめん」

「うん?」


 まずい、また勘づかれそうだ。


「とにかく行こうか」

「ゴーゴーゴー!」

「押すな押すな!」

「飯は待ってくれんぞ」

「待つよ!あとそれ敵な」


 どうしよ。今になって凄いドキドキしてきた。

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