第8話いらっしゃいませ。行き倒れ美少女と…お泊まり!?昼編

 朝の開店前に、一葉が俺の家の俺の部屋で泊まると言って、親父があっさりと了承してから今はお昼である。


 休日の昼とあって、満席状態が続いている。家族、恋人がやって来て読書をしながら小話をしていたり、『Natume's Cafe』の常連客中でカウンター席に座った人がたまに親父に愚痴を聞いてもらったりと休日は賑やかだ。

 で、客が多いと俺はキッチンと接客を掛け持つ事になる。

 だが、今日は少し違う。


「デミハンバーグセットon目玉焼きと当店人気のナポリタンですね。畏まりました♪…文くーん注文だよ」


 一葉が接客をしてくれているのだ。理由は至極単純、『お泊まりするならお店を手伝いたい』、一宿一飯のなんとやらだ。


 そんなわけで、一葉は家の店の制服姿である。

 結果、客の目を逆に引き寄せる事になり、大体が読書どころではなくなってる。


 一方でキッチンでも親父が女性の視線を集めていた。対象は女子中学生から上。


 親父はダンディーな顔立ちで体つきが良い。それでではなくで来店するくらいに。


「延長できないか?」

「お願い」


 今、外に小さな列が出来ている。その場合、申し訳ないが時間を制限しなくてはならなくなる。

 最小時間30分で、一人から二人客は最大1時間、三人から四人は2時間とネカフェみたいに。

 滅多に無いけどな。


 だけど、今日は皆最大時間を選び、延長不可なのに延長まで望む。


 理由は一葉。

 一葉という美少女の加勢で、男子、更に女子がコンマ一秒でも見たいと滞在希望する。

 嬉しいけど、こればかりは待ってる人の事も考えてほしいと思う。


 それが11時から始まり2時間半、やっと落ち着いてきた時にちょっとした例の事件が起こった。


「紅葉さん、ハンバーグセット二つ出来ましたんでお願いします」

「了解」


「…文く〜ん」


 何か最近、聞き覚えのある弱々しい声が聞こえた。でも声の主は見当たらない。まさかと思ってカウンター席の方に回った。


「ふ〜み〜く〜ん」

「わああああ〜!」

「く〜わ〜せ〜て〜」

「あああああ〜!」

 

俺の悲鳴で近くのお客様は倒れてる一葉がいることに気付いたようだ。


 ホラー声怖かったぁ。ハリウッド行けるぞ。


 それにしても失敗した。何処かで一葉に休憩を入れて昼食を取ってもらうべきだった。

 俺は「ふぅ」と一息吐いた。


「一葉、何食いたい?」

「…ナポリタンとオムライスと目玉焼きハンバーグが食べたい」

「食えるのか、それ」

「…いつもは…遠慮…してるんだよ」


 マジか。満足な顔してたからてっきり十分だと思ってた。


「なら、今日は思う存分満足させてやる」

「ふみゅ〜」


 一葉をキッチン裏にある控え室にいつものお姫様抱っこでお客様に茶化されながら運んだ後、調理にかかり、三つを作り終えて控え室に運んだ。

 一葉は長テーブルでへんにゃりとなっている。


「一葉」

「文くん…ぁ、いい香り」

「ほい、思う存分食え」

「…おお!…文くん、本当にほんっとぉにこれ全部…!?」

「良いよ」


 一葉は、ぱぁと顔を輝かせて「いただきます!」と言い黙々と食べ始めた。


「ごちそうさまなのじゃ!」

「足りたか?」

「うむ、余は満足である」

「何処の殿様だよ」

「食獣の殿様」

「食獣ってなに?」


「そういえば文くんも休憩かの?」

「そ、一葉様に持っていく次いでにと」

「それで文くん、昼食は?」

「一葉様が黙々と食ってる間に」

「……そっか」


 見られていたことが恥ずかしいのか一葉は頬を赤くして動揺する。今更だ。


「…なあ一葉、聞いて良いか?」

「うむ、飯の礼じゃ、申してみよ」

「…何で今日、泊まろうと思ったんだよ?」

「…あのね、今日で私と文くん出会ってどれくらい経つ?」

「丁度一週間だな」

「イエス。即答サンキュー!だからね、記念の思い出欲しいなって」

「…なるほど」


 俺は嬉しいのと恥ずかしいのが混ざった気持ちになって頬を掻いた。


「だから、仕事終わったら一杯楽しもう!」

「なら、休憩終わったら気合い入れて行くぞ」

「おー!」


 それから俺と一葉は親父と紅葉さんと休憩を入れ変えて再開した。


 でも、お昼時が終わって気合いは大体が空振りになって終わった。

 悲しきかな。

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