4-6 遥かなる地平線に血の雨を
戦いのあと、吹き抜ける風の声は静かだった。しかし冬の風は死に満ちていた。
戦いは終わった。ミッコたちがフーの後方の野営地からエミリーを奪い返したのと時を同じくし、アンナリーゼ率いる
結果は予想通りだった。アンナリーゼは勝ち、フーは負けた。フーはわずかに残った手勢と東に落ち延びた。フーはカラシニコフという砦に立て籠もったが、もはや運命は決していた。落ちた先は行き止まりだった。
フーの手勢は兵員に一族郎党を加えても千人に満たない。対して、会戦で損害を被ったとはいえ、アンナリーゼら
地平線を流れ吹く風が声を運んでくる──『遥かなる地平線に血の雨を』、と。
かつて圧倒的な個の武勇で東の地を蹂躙した狼のトーテムは折れて砕けた。雪に染まる死屍の先には、勝者として獲物を追い詰めるアンナリーゼの赤兎旗が翻るのみ。そして、自らを〈
カラシニコフの砦を包囲する
二百年前の〈
狼王の遺児フー──単なる旅人でしかなかったミッコとエミリーと邂逅した王たる男は、古今東西の英雄豪傑の例に漏れず、滅び去ろうとしていた。ただ、それはミッコとエミリーの物語とはまた別の物語であった。
冬の風が地平線を吹き抜ける。冷たさを増す風は、背後から聞こえる喚呼を背に、どこかへと流れ去っていった。
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