第20話

始まりはじいちゃんと過ごした

いくつかの夏休みだった。

じいちゃんはよく小さかった俺を助手席にのせて

色々な場所に連れてってくれて色々なものを見せてくれた。


水の綺麗な沢や、山菜、

セミやカブトムシが採れる山、

罠を仕掛ける方法や

蚊に刺さされにくくするツボをおしえてくれたり、

草で作る虫かごをつくってくれた。


じいちゃんがよく行くパークゴルフ場や

行きつけの蕎麦屋、

車の修理会社にも連れ出してくれた。


俺もじいちゃんみたいな色々な事ができるようになりたいと、次第に思った。


それをじいちゃんに言ったら、

よく学びなさいと、言われた。


自分の学びたいものを学んで、

自分の好きなものを伸ばしなさいと。


じいちゃんとよく行く沢が好きで

涼しい山もじいちゃんと行きたくて

沢の昆虫、魚もお年玉で図鑑買って読んだし

山の道具も買ったし、危険な動植物を避ける知識も付けた。


そしたらじいちゃんは満足そうに喜んで俺に机を買ってくれた。

これで好きな事を勉強して

もっと楽しみなさい、と。


もっと知ることが好きになった。


だけどじいちゃんが春先に癌で死んで

母さんが進路で俺に色々いうようになってからは

テキストやら本やら帰ってきたら

机に山積みされるようになった。

最初は無視してたけど無視したら今度は

怒鳴るようになってしぶしぶやった。


やるようになったらもっと上を目指せと言われ

もっと、ちゃんと、が枕詞に着くようになった。


机に寄り付かなくなると

母さんは俺を塾に通わせた。


興味のない話ばっかりで全然頭に入らなかった。

順位はぱっとしなかった。というよりかは

特進コースの友だちも通うような

俺にはレベル2個も3個も上のクラスで

ついて行くのにやっとの授業だった。


そんな時間を過ごすうちに

俺のささやかなじいちゃんとの「約束」は

じいちゃんがいない間にかき消えた。


それでもどうにか好きなことがやりたいと

図鑑を見たら、今度は活字が嫌いになってて

図鑑の字を追えなくなっていた。

それが1番悲しかった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る