第16話

次の日、来ると言っていた少年はお店には来なかった。

次の日、またその次の日も。

定期テストってこの時期だったっけ。


なんて古い記憶を思い返し、

多分そうかな?と結論づけた。



人間、触られずにいたいよね。

今は思春期だし、そっとしておこう。


雨が降り、空と雲が遠くなり、秋が深まっていく。


「お嬢、これあげる」とピラリと

ペラ紙1枚渡された。


依頼主は女性だった。

ジャーコジャーコいう

古びた黒電話を回してアポをとる。


いくばかりか焦りと怒りをはらんだ女性の固く細い声は

私の足を重くした。






うちは昔ながらのお店で相談解決という手法と

今流行りの宅訪問系の出張相談を承っている。


来てみて息の詰まりそうな程キッチリしたお宅だった。キッチリかっちりと固めたシワひとつない

お洋服に袖を通す、くの字みたいな眉が特徴の

顔のこわばった女の人がお客さんだった。


胡散臭そうに足もとから頭まで私をみて溜息をつきしぶしぶあげてくれた。


釈然としないまま私も硬いソファに腰掛けた。






もう今回ばかりは私の苦手な類のお客さんで

存在自体が私の脳内で拒絶反応が出まくっていたから

話だけをかいつまんで聞くと要らない机があるから

お祓いして捨てて欲しいとの事だった。


物によるけどうち、神社じゃないから

払いきれないよ?と今回ばかりは

注意を促した。


しかしこの女性、全然人の話なんて聞いても

くれない。目に力が入り、口早くちばやにまくし立て、彼女のティーカップの取っ手を持つ手は

力が入っているのか筋が浮いている。


何をそんなに焦ってる…。


とにかく子供をいい大学に入れなければいけない、

そのためには子供を今からしっかりさせておかないと

いい生活も出来ないし良い大人になれないから

ここで「矯正」してあげないと、と

私に口説する。


依頼物は子供たにんのものか。


言われて捨てるのか、

いわく付きか、

彼女の独断か。


仮にただ捨てるのならリサイクルショップの方が良くて、

お祓いと言ってくるくらいならほんとに神社か

彼女の独断で学生の子の机を取り上げるのは

なんだか分からない。


政治家の意見発表会の様な演説を聞くうちに

家の色が濁ってきた。


良い「空気」の家は色がキレイで、

「ヒビの入った」家は色が淀むのだ。

もちろん、これは誰に言っても理解されないのだから目の前の私の話を聞かない彼女には

全く受け付けないだろう。


ほら、色が淀むよ。

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