第2話 ある夫婦の話

「おはよう、お嬢、お前今日ここ行ける?」


紙ペラ1枚寄越される。


ボールペンを滑らせた繊細な字で書かれた住所は

歩いたり自転車に乗っていくには、いくぶん遠い場所にあった。


「どう?行ける?無理そうならお前今日ここの番してていいからさ」


黒いTシャツに良く似合う細身のジーパンを履き

フリルも柄もついていない、黒無地のエプロンを巻き付けた女性。のような男性、白木さん。


ゴトリと、マグカップに並々カフェオレを注いでくれた。

「いやー、車で行けば行けない距離でもないんで

いってきます」

お礼を言いながら程よくぬるいマグに口をつけた。

「そう、」


「俺なんかあったら店いるから、電話して」

ラジオ流して新聞読みながら、こもりがちの早口を聞き取れるようになるには時間がかかった。


白木さんは何社かの新聞の経済欄を読み漁り、地方雑誌をめくり、

たまにクロスワードを解いた新聞を投げてよこす。


「これ読んどけ」の合図。


昔ながらの黒電話でジャカジャカ番号を回す。

数コール後に出てきてくれた女性の元に、

今日は会いに行く。

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