第4話 お兄さんは鬼さん

マリアーヌさんに連れて来られたのはどうやら食堂みたいだ。

確定できないのは、ここが私の出会った事の無い部屋だから。

大きなテーブルはどうやら1枚板で出来ているらしく、

足には豪勢な彫刻がされている。

壁には大きな絵が飾られていて、

部屋の四隅には、大きな花瓶に色とりどりの花が飾られていた。


「なんちゅう贅沢な…。」


長方形のテーブルの奥側が上座だろう。

そこにはさっきの兄さんが座っているけど、遠くてよく分からない。

私はボーイさん?に下座の椅子を引かれ、大人しくそこに座る。

やがて料理が運ばれ、私の前に並んだ。


「いっただきま~す。」


お腹空いたし、出されたものを食べないのは失礼よね。

そう定義付け、私はひたすら食物を口に運んだ。


「………※*#…?」


「はい?」


「……**@※※……*?」


「すいません、遠くてよく聞こえないんですけど。」


それじゃなくても、食べるので忙しいんだ。


すると再びボーイさんが私の椅子の後ろに立ち、背もたれに手を掛けた。

何?立てって事?

しょうがないなぁ、そう思いながら少し腰を浮かせると、

椅子を引かれた。

そのまま案内され、お兄さんの隣の席に座らされる。

最初からそうすればよかったじゃん。

とは言わない。

こっちはご馳走してもらう方だから。


「すまなかった。

最初からこちらの席にしておけばよかったな。」


いえいえ。


「で、疑問が山の様に有るんだが、聞いてもいいか。」


「まあ、信じてもらえるか分かりませんが、答えますよ。」


パンをかじりながらそう答える。


「まず名前から聞こうか。」


あ、それ全然大丈夫。


「私は観月香苗、26歳、得意分野は化学、出身は静岡、

最終学歴東京都立真柴大学院工業化学科。」


「そ、そうか…。

名前らしきものと、年齢は分かったが、

後はさっぱり分からない、一体何なんだ。」


「えー、出身地は静岡県で、」


「シズオカケン?そこから来たのか。

あまり聞かないが、どの国に有るんだ?」


「日本…国。」


あぁ、もうアウトか。

こりゃ説明が長くなるぞ。

研究の合間に息抜きに読んでいた、ライトノベルズが役に立つかな?


「えっと、多分私はあなたの知らない世界から来たんだと思います。

何て言ったらいいかな。

例えば糸が何本も並んでいたとするでしょう?」


そう言って私は水でテーブルの上に数本の筋を書いた。


「何らかの衝撃でこの糸が弾かれ、隣の糸と接触するとします。

その一瞬の時に、偶然私が世界を超えてこちらに来てしまった。

そう思われます。

私はあちらで不可解な水溜りに足を取られ、そのまま沈んでしまった。

多分その時に何らかの力が加わったのだと思います。

そしてこちら側のあなたに手を取られ、引きずり出されたんじゃないかな。」


「何やら理解不能な単語が有ってよく分からないが、

要は異世界人なのか?」


何だ、分かってんじゃん。


「それならあなたは女神だ。」


「女神?何それ神様。

教会に行って崇められるの?」


「いや、女神=教会ではない。

本拠地にはできるが、協会は女神をサポートする。」


つまり、女神>教会 なんだろうか。

まあ、一応神と言う文字が付いているし。


と言うか、異世界人=女神ってどうしてなんだろう。

頭をひねっていると、ふとお兄さんに違和感を感じた。

何だろう、何が違うんだろう。

お兄さんをじっくり眺めて、ようやくその正体に気が付いた。


「お兄さん、それは何ですか?」


そう言ってから、後悔する。

もしあれが本物で、身体的に異常な物だったら、それは控えるべき言葉だ。

だって、それは普通の人だったら有り得ない物だから。

それはどう見ても角だったから。

たとえ小さくてもヤギのような角が2本、お兄さんの頭の左右に有る。


「これか?

角だが、そうは見えないか?」


いえ、角に見えます。

だが、そうも簡単に認めるとは、なかなかの人物だな。


「もしかして、お兄さんは鬼…なんですか?」


「鬼?なんだそれは。

取り合えず俺は魔族だが。」


魔族、知ってる。

本に載っていたから。

そう言えば鬼も本に載っていたな。

どちらも架空の人物だった筈だけど。


まあいいや、ここまで来たら何でも有りだ。

ここでは私が異邦人。

お兄さんの方が正義だ。

郷に入っては郷に従え。

私の方がこちらに慣れるべきだ。

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