第5話 先輩の行方

「その女神って、こちらではどういう定義なんですか?」


取り合えず、異世界人=女神らしいから、知っておくべきだろう。


「女神か?女神とは……女神だ。」


「なるほど、それは確立しちゃっている訳なんですね。」


こちらでは、その肩書が浸透するほど皆が知っているのか。

つまり、女神とは珍しくない存在。

それなら女神、異世界人はかなりの数こちらにいる筈だ。

と言う事は、先輩もこちらに来ている可能性が高い。


「ねえ、茉莉香と言う名前の女神様っていなかった?」


「マリカ?マリカ……確かいたな。

遥か昔、その名の女神がいた筈だ。」


「やっぱり。

ねぇ、その女神様って、………遥か昔?」


嫌な予感がする。

こちらの遥か昔がいつ頃の事を言うのか、聞かなければ。

もしそれが私が認識している時を指さなければ望みはある。

だがそれは甘い夢だった。


「そうだな、数百年前と聞くが。

はっきりとした年数は分からない。

多分調べる方法はあるだろうが。」


「あのさ、女神様って、神と言う名が付いているぐらいだから、

長命だとか、不死って有る…よね。」


わずかな望みを掛け、口に出す。


「一般人より長めに生きるらしいが、不死は無いな。」


「そ…うか、

絶望………。」


私はテーブルにあったカトラリーを握りしめ、

歯を食いしばった。

これで永久に先輩に会えなくなったかもしれない。

もう二度と、あの笑顔も見れない。

あの声も聞けないのか。


「もしかしてお前、その女神と知り合いだったのか?」


「分からない。

あちらで茉莉香先輩がいなくなったのは、1年ぐらい前で、

そんな数百年も前じゃないけど、

次元糸が弾かれた時、一体いつの時間に飛ばされたのか分からない。

もしその名が複数無い限り、その女神様が先輩だった可能性は高い。」


「そうか…残念だったな。」


「……うん。」


あーダメだぁ。

落ち込むどころじゃない。

ずっと向こうで探し回って、諦めた人だって多いのに、

それでも私は諦め切れなくて、探して探して探して。

やっと糸口を見つけたと思った途端、止めを刺された。





「そう落ち込むな。

と、行っても無理か。

しばらく此処で落ち込んでいろ。」


「ありがと。」




「あのさ、女神の事が知りたいって思ったら、

詳しい事知っている人っているの?」


「そうだな、人が語り継ぐには長すぎる時間だ。

その事に興味を持って調べている人はいるだろうが、

頼りになるのは伝書物だな。」


「伝書物?

つまり本?」


本か、いいじゃないか、本。

調べるっていいよね。

そう言う人がいるんだ。

会ってみる価値は有りそうだよネ。

女神か、そう言えば私も女神か?

ふ~ん、まず自分の分析からか。


「女神ってさ、何でそう呼ばれるの?

神って付くぐらいだから、何か特殊な理由が有るの?」


「さあな、何せ俺が会ったのはお前が初めてだ。

何かしら出来るらしいが、具体的な事は知らないな。」


何だ、役立たずか。


「お前、今凄く失礼な事を思っただろう。」


「なぜ分かったの。」


するとお兄さんが噴き出した。


「お前は顔を見ているだけで感情が駄々洩れだ。

マリカの名前を聞いて嬉しそうな顔をしたり、

それが数百年前だと聞いた途端、凄く悲しそうな顔をしたり。

今だってそうだ。」


きっと私は蔑んだような顔をしていたのだろうか。

表情筋を鍛えるか…。


「そう言えば女神に付いての情報が有る。

聞きたいか?」


「聞きたい!この際何でもいいから聞きたい。」


「女神とは、世界中に一人しかいないんだ。」


は…………。


「だって、今まで何人もいたような事言っていたじゃない。」


「いたさ。

何人かな。

全ての女神が把握されていた訳じゃ無いし、

登録されていた訳じゃ無い。

だが、いつの時代にも女神は一人だけだ。

なぜ一人なのか。

噂によれば、女神が死んだ時、新しい女神が現れる。

若しくは、新しい女神が現れると、今までの女神の能力が無くなる。

そんな話だ。

だが、それが世界規模で知られている。

確認したヤツなんていないから、真実は分からないけどな。」


何だ、ガセか?


そう思ったら、お兄さんは私の顔を見て苦笑いをしている。

悪口がバレたかな。

まあいい、はっきりとは分からないんだな。


「その女神の事を調べている人に会う事は出来るの?

若しくは本が見たい。」


でも、その人なら当然本を持っているだろう。


「確かこの国にもいた筈だ。

ただどこに住んでいるのかは知らないな。」


「知らない事ばかりだね。」


「悪かったな。

協力するの止めるぞ。」


「いえ、私が悪うございました。」


先輩はここに来て、どうしていたんだろう。

女神として生きたのだろうか。


「多分調べればすぐに分かると思うが、

もし遠くにいたとしても行く気か?

この国はかなり広いぞ。」


「行くさ、此処に居てもやる事も無いし、

ここまで追ってきた先輩の事だもの。

最後まで知りたい。」


そうかと言って、お兄さんが席を立った。

いつの間にか食事を終えていたんだ。

話ながらご飯を食べていた様子は見えなかったけど、器用だね。


そう言えば…。


「ねぇ、異世界人が男だったら、女神とは言わないよね。

だったら神とでも言うの。」


「おかしなことを言う。

女神は女神だ。

男が流れてくる事は無い。」


納得です。

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