第6話 ローゼと人類の罪

「さて、約束通り詳しく聞かせてもらおうかアルエーリくーん」

日も暮れはじめ、授業を終えた俺とヴァンは男子寮へと歩いていた。

周りにも同じく寮へと戻るクラスの面々がいる中、待ちわび過ぎてフライング気味に昼の一件について詰められている。


「ヴァン、隠してるわけじゃないが何かと面倒だから言いふらさないと約」

「任せろ」

「束はえぇよ!!」

どうやら好奇心に取り憑かれているらしい。


「学術院に来る前、つってもまぁほんの一月前だけど、俺とローゼは俺んちで一緒に暮らしてたんだよ」

「同棲じゃねぇかっっ!!!」

「声がでかい!!!!!」

こんのやろっ、今日は廊下で寝るはめになるぞ覚悟しとけよ!!


そして周囲の訝しむ視線が収まるとひそひそ俺に耳打ちしてくる。

「なんでそんなことになってんだよ、そもそも許嫁どころかすでに家族じゃねぇかそれ」


(もし、、もし、あいつにとって、俺達が家族だったらどれだけ良かったか)

アルエーリは言葉を飲み込んで、少しの間を置いてから話し始めた。


「あいつの両親と俺の両親は戦友だったんだよ。

マクドキア大戦時一緒に戦ったって母さんが言ってた。大戦でうちの親父は死んで、あいつの両親は大戦には生き残ったんだけど、その後あいつを守って死んだ。母さんがあいつの両親に頼まれたんだ、もし一人になることがあれば家族にしてやってくれって。

それであいつがうちに暮らすことになった。

だから一応親公認の許嫁ってことになってる」


先程までの空気とは一転して、重い話を聞かされたヴァンの表情は真剣そのものだった。

「天涯孤独の身ってことか、、、そりゃあ相当辛いだろうに。けどなんでまた大戦直後に襲われたんだ?」


「お前さ、医務室の廊下であいつとぶつかった時言ってただろ」

「なるほど言ったな、あれだけ可愛いと襲う輩がいてもおかしくない」

「違う。ヴァンお前ほんとに今日廊下で寝ろよ」

「いたって真剣だったんだが」



「あいつの錬天術、どう思った」

「確かに、あの速さで術を使えるのは特進組の中でも相当上位かもな」

「それだけじゃない。廊下、凹んで無かっただろ。

あいつが使ったのは錬天術じゃない、錬金術だ」

「………まじかよ」


この時代に錬金術が使えること、それはとんでもない業を背負って生まれてきたことになる。

過去、錬金術によって栄えた国、錬金術によって使い尽くしたエネルギー、錬金術士同士の戦争、その争いにより拍車をかけ滅んだ錬金術、衰退の一途を辿る国、その全てが錬金術により起こったもの。


錬金術士とは、英雄であると同時に大罪人でもある。


その力をある者は恐れ、ある者は悪用しようとするだろう。


錬天術士にとって錬金術とは無から有を生み出すに等しい意味を持つ。錬天術は基本的に質量保存の法則が働いている。机の一部を隆起させると他の一部が陥没する。体の一部を硬化させると体のどこかがひどく脆くなる。表面を硬化させれば内側の密度が薄くなる。

一方錬金術は干渉先と別のところからエネルギーを引っ張ってきている。干渉している物体からしてみれば単純に質量が上がる為、極論鉛筆からダイアモンドに作り変えることも可能になる。


「俺達も元を辿れば錬金術士の末裔。でも体質が錬金術士のそれとは変わっちまってるから自然エネルギーから炭素を拝借なんて出来ないし、そもそもご先祖の術の多用で、空気中の自然エネルギーなんて微々たるもんで使いたくても使えない」

「でも、ローゼちゃんは使える」

「いわゆる先祖返りってやつだ。あいつは正真正銘ご先祖に愛された天才、錬金術士なんだよ。

…あとそのローゼちゃんってやめろ、鳥肌立つ」



歴史上、特別な力は常に持つ者持たざる者を区別なく狂わせてきた。人は誰しも自分の為に力を利用しようとする生き物だ。

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