第31話 続守屋紗耶香という女
休憩時間に何となく前田君を見ていると、スマホを操作していることが多かった。仲の良い男子が休みみたいだし、他にやる事も無いんだろうなあと思っていたけれど、私に返事を返してくれることは無かった。
「ねえ、私には返事くれないの?」
「え、ああ。特に返すようなのも着てないし良いかなって思ったよ」
「ちょっと、それは酷くない。女の子が告白したのに無視するってどうなのよ」
本気の告白ではないにしても、同じ教室にいるのに全く気にされていないのにも腹が立ってしまったのか、私は感情的になってしまっていた。
「私の事をもてあそんだのね」
「いや、話をしたのは今日が初めてだと思うけど」
「何度か挨拶はしたと思うけど」
「ごめん、それは無意識のうちに返事を返していたんだと思うよ」
「どうして私の事を見てくれないの?」
「見るも何も、俺には彼女いるから」
「そんなのはどうだっていいじゃない」
「どうでもいい事じゃないと思うけど」
「あなたの事が好きなんだから」
ちょっとやりすぎてしまったと思ったのと、本心がそうではない事を隠し切れなくなってしまいそうだったので、私はその場にしゃがんで顔を隠してごまかすことにした。
周りの感じでは佐藤さんが入って来たみたいだけど、今は顔を上げると泣いていないのがバレちゃうからこのままやり過ごさなくちゃ。
良美さんが佐藤さんにこの状況を説明してくれたんだけど、上手い事説得できたみたいで私も助かったわ。今度良美さんにお礼をしなくちゃね。
そのまま平和に過ごしていたはずなんだけど、どういうわけか私も前田君たちと一緒にお弁当を食べることになってしまった。深く関わりすぎてしまったのかもしれないと後悔したけれど、何とかなるでしょう。
でも、お弁当を持たずに外までついてきてしまったよ。今更戻るのも変な話だし、どうにかして取りに戻るタイミングを探さないとね。
それに、巨乳の鈴木先輩と金髪の先輩がいるから何とも居心地が良くないな。どっちの先輩も怖い人じゃなさそうだし、良い人っぽいんだけど、先輩ってだけで気後れしちゃうよね。一人は異常に胸が大きいしさ。私だって学年で一番大きいと思うんだけど、そうでもないかもしれないって思っちゃうよね。
「二人とも早かったね。って、一人増えてるね。ま、いっか。みんなおいでよ」
「そうだね、一人増えるのも二人増えるのもそんなに変わらないし、楽しくやろうよ」
金髪の先輩って見た目も可愛らしいんだけど、声も可愛らしいのね。先輩じゃなかったら抱きしめてしまいそうだけど、先輩にそんなことは出来ないよね。どうにかして試すことが出来ないかしら。
「なあ、一年男子。今私を見て失礼な事を考えていなかったかな?」
「いえ、噂通り近くで見ても綺麗な人だなって思ってました」
「君の視線の先は顔ではなくて、胸元だったようだけれど、綺麗に整地されているとでも言いたいのかな?」
「その辺はよくわからないですけど、愛華先輩の胸は大きすぎるし、守屋さんも愛華先輩ほどではないけど大きいと思います。でも、俺は大きいより小ぶりな方が好きなんです」
「そうか、そんなことを宣言しなくてもいいんだけど、君はなかなかの変わり者らしいな。みさきの彼氏ってくらいだから想像はしてみたのだけれど、私が思っているよりも変わっているのかもしれないな」
前田君は貧乳が好きなのか。それだったら私の事が印象に残らないのも仕方ないわね。顔が可愛いけど胸の大きい女子には興味ないみたいだし、それなりに楽しかったしそろそろ教室に戻らないとお弁当を食べる時間が無くなっちゃいそう。
さっきから佐藤さんがしきりにスマホを気にしているみたいなんだけど、画面が暗いままよね。もしかしてバッテリー切れたのかな?
「ねえ、もしかしてスマホのバッテリー切れてるの?」
私が急に話しかけたからなのかわからないけど、佐藤さんは少し驚いた顔をしてこっちを向いたのよね。
「さっきからスマホを気にしているみたいだけど、電源入ってないよね? バッテリー切れならモバイルバッテリー貸そうか? 私は上着とお弁当を取りに行ってくるけど、必要だったら持ってくるよ?」
「でも、良いの?」
「いいよいいよ。前田君の彼女さんに嫌われたくないし、仲良くできたらいいなって思ってるからさ」
「でも、まー君の事好きで告白したんじゃないの?」
告白したはしたんだけど、佐藤さんみたいに真剣な感じじゃないと思うんだよね。何となく思い出作りって言ったら怒られそうだけど、それ以上の意味も特になかったりするのよね。
「好きは好きだけど、告白してきたら誰でもいいって感じの人だったら嫌だなって思っただけなんだよ。佐藤さんの彼氏を試すような事してごめんね」
「そうだったのね。ちょっと心配しちゃっただけだから大丈夫よ。それに、バッテリーお願いできるかな?」
うん、上手くごまかせたみたいね。ここで名前で呼べばもっと距離が縮まりそうね。
「いいよ。みさきちゃんと仲良くなりたいのは本当だしね」
上手い事この場を離れることが出来たんだけど、問題は前田君の上着がどれかってことなのよね。男子は似たようなのを着ているからわかりにくいんだけど、その辺の男子に聞けば何とかなるでしょ。
急いで教室に戻ってみたんだけど、男子は何人かしか残っていなかった。近くにいた男子に聞いてみたんだけど、前田君の上着がわからないらしく、他の上着の持ち主を聞いて消去法で見つけることにしたの。他の男子にも聞いたから間違いないと思うけど、間違っていたらごめんなさい。
あとはお弁当を持ってあの場所に戻らないと。って、別に戻る必要はないんじゃないかと思ったけど、約束しちゃったし戻る事にするわ。モバイルバッテリーも忘れないようにお弁当の袋に入れておこう。
朝早くて急いでいたから気付かなかったけれど、間違えてお兄ちゃんの分まで一緒に持ってきちゃった。朝寝坊したお兄ちゃんが自分の分を持たなかったのが悪いんだし、私は気にしないことにして先輩たちに食べてもらうことにしよう。
さっきの場所に戻ってみたら、誰もお弁当に手を付けていなかった。私の事を待っててくれたのかと思うと嬉しくなってしまったわ。前田君以外は初対面なんだけど、そこまで気を使ってくれたのは嬉しい。上着も前田君ので間違いないようだった。
あれ、先輩達っておにぎりしか食べないのかな?
金髪の先輩はそれでも大丈夫そうな体だけど、鈴木先輩はもっと食べなきゃ体を維持出来なさそうじゃない。
「先輩たちはおにぎりだけで足りるんですか?」
「こんな感じの昼食が多いから慣れているけど、少し物足りない気持ちもあるかな」
「私が自分で作った奴なんですけど、良かったらどうですか?」
私一人で二つもお弁当を食べる事なんて出来ないし、残すのももったいないし、何より作った時の苦労が浮かばれないわ。
先輩たちも美味しそうに食べてくれているし、お兄ちゃんと違って文句も言ってこないから作り甲斐があるかも。お兄ちゃんもたまには感謝してくれたらいいのにね。
鈴木先輩はやっぱりおにぎりだけだと足りないらしく、私のお弁当を食べたのに、佐藤さんのお弁当も狙っているようだった。でも、佐藤さんのお弁当も美味しそうだな。私も食べてみたいな。
「あの、私も食べていいんですか?」
「うん、守屋さんも食べてよ」
「ありがとうございます。わあ、どれも美味しそう」
私のはそんなに味が濃い目じゃないんだけど、これくらいしっかり味を付けた方が美味しいんだろうなって思った。佐藤さんのお弁当はそんな感じだったんだけど、お兄ちゃんが家でも濃い味が好きなのを思い出すと、感謝さてないのも仕方ないって思ってしまった。でも、作った事には感謝してもいいよね。
それにしても、佐藤さんって見た目も可愛いしお弁当も美味しいし彼女にしたら最高よね。私だって多少は可愛いとは思うけれど、そう言うのじゃない内面的な美しさが佐藤さんからは出ているのよね。もっと仲良くなりたいな。
お弁当のお礼じゃないけど、モバイルバッテリーを渡しておかなきゃね。佐藤さんも同じケーブルで充電できるみたいで良かった。自分のケーブルしか持ってないから心配だったけど、今は大丈夫だったからいいけれど、次からは確認しておいた方が良かったかもね。
「それにしても、佐藤さんって料理上手なんですね」
「ありがとう。私の事はみさきって呼んでいいよ」
「じゃあ、私の事も紗耶香って呼んでくださいね」
「うん、同じ一年生同士お互いに仲良くやっていきましょうね」
他のクラスの女子と仲良くなれるなんて思っていなかったんだけど、佐藤さんってやっぱり良い人なんだね。前田君をからかったことを後悔しているけど、佐藤さんはきっと気にしていないんだろうな。
佐藤さん……みさきとはこれからもっと仲良くなりたいな。
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