第32話 帰宅しよう 佐藤みさきの場合

 今日は色々あったけれど、まー君にお弁当を食べてもらえてよかった。明日はお弁当を持ってくるみたいだからまー君の分は作らないんだけど、まー君がお弁当を持ってこない日は前の晩に教えてもらえることになったので作り甲斐があるのかもしれない。

 前日の夜ってのはちょっと遅い気もするけれど、毎回気合入れてお弁当を作るのも大変だろうって気遣ってくれたのが嬉しかった。好きなおかずは揚げ物なら何でもいいらしいんだけど、毎回揚げ物ってのもレパートリーが少ないと思われそうだし、それなりにお弁当の知識を増やしておかなくちゃ。


 それにしても、紗耶香はまー君の事を狙っているわけじゃないのかな?

 最初はおかしい行動を取っているみたいだったけれど、お昼休みの時はまー君よりも私の方ばっかり見ていた気がするし、もしかしたらそっちの趣味があるのかな。私の周りはそれっぽい人が多いんで気になるんだけど、胸が大きいと女性が好きになりやすいって性質でもあるのかな。私は胸が小ぶりなんだけどまー君が好きだし、アリス先輩も胸が小さいのに婚約者いるみたいだもんね。


 放課後はお昼みたいに他の人に邪魔されないといいんだけど、どうにかして邪魔を回避出来ないかしら。何かしらの手を打っておいても問題はないと思うし、今日はまー君の友達も休みだから二人っきりになれるチャンスなのよね。

 愛ちゃん先輩とアリス先輩は私の方に来ないと思うけれど、紗耶香はどうなのかいまいち行動が読めないのよね。知り合ったのが今日なんだから仕方ないんだけど、お姉ちゃんを使って足止めしてもらおうかな。お姉ちゃんならきっと上手い事やってくれると思うし、紗耶香も先輩の言う事は無視しないと思うのよね。でも、どうやってお姉ちゃんと紗耶香に接点を持たせればいいんだろう?

 気が付くとホームルームも終わっていて、あとは帰るだけなんだったのにまー君の教室に行ったら紗耶香に呼び止められてしまった。


「あのさ、私は二人の邪魔はしないから安心していいよ。ちょっと誤解を招くことをしちゃったかもしれないけど、前田君とみさきの恋がずっと続くといいなって思ってるからさ。何かあったら頼ってくれていいからね」

「ありがとう。紗耶香はまー君の事が好きなのかって最初は疑ってたけど、私の考えすぎだったみたいだね。うん、これから何かあったら頼っちゃうかもしれないんで、よろしくね」


 紗耶香って変な人だと思っていたけど、友達思いないい人なのかもね。友達になったのは今日からなんだけど、そんなことは関係ないくらい私に良くしてくれているのよね。何が目的なのかわからないんで不安だけど、それなりに信頼してあげてもいいのかもしれないって思うわ。

 紗耶香と少し話してからまー君の席に向かったんだけど、まー君は私が行くまで待っててくれたのよね。ちゃんとした約束はしていないんだけど、こうして待っててもらえるのは嬉しいわね。


「おまたせ、今日も一緒に帰りましょ」

「ああ、今日は家まで真っすぐ送るよ」


 家まで送ってくれるのは嬉しいんだけど、どこかに寄り道したっていいんだよ。二日続けて家に行くのは良くないと思うんだけど、家がダメなら他の場所でもいいんだけど、まー君はそれに気付いてくれるかな?


「今日ってお昼の後は普通だった?」

「うん、まー君は何かあったの?」

「いや、これと言って特別なことは無かったんだけど、先輩たちと守屋さんと何かしたのかなって思っただけだよ」

「ああ、先輩達とも紗耶香とも変わったことはしてないよ」

「それならいいんだけど、困ったことがあったら教えてね。みさきの事は守るからさ」


 ここまで思ってもらえるのは嬉しいな。直接言ってくれるのも嬉しいし、まー君なら本当に守ってくれそうな感じもしているしね。

 そのまま二人で下駄箱まで行ったんだけど、途中でお姉ちゃんとすれ違っちゃった。


「おお、みさきじゃん。これから帰るのかな?」

「うん、そうだけど。お姉ちゃんはまだ帰らないのかな?」

「私はもう少ししたら帰ると思うんだけど、アリスと愛華が何かしているみたいなんだよね。それが終わってから一緒に帰ろうかと思っててさ。今は売店に向かってるとこなんだよ」

「先輩達ってまだアレやってるのかな?」

「そうだね。一年の時みたいに表立って行動はしてないみたいだけど、先生もアリスも愛華も普通を装ってる感じなんだよね」

「そうなんだ、今度その時の話を聞いてもいいかな?」

「あんまり人に話すような事じゃないんだけど、みさきならいいかもね。アリスと愛華にも聞いてみるかい?」

「そこまではいいかな。詳しく知りたいってわけじゃないし、ちょっと気になるって感じだからね」

「そっか、みさきも大人になったね。じゃ、私は売店に行ってくるけど、みさきはあんまり寄り道しないで帰るんだよ」


 お姉やんはそう言って売店の方へと歩いて行ったのだけれど、意図的にまー君の事を無視していたような感じがした。お姉ちゃんなら紹介してもいいんだけど、お姉ちゃんにそのつもりがないみたいだしやめておいた方が良さそうなのよね。

 まー君は私とお姉ちゃんのやり取りを黙って聞いていたみたいなんだけど、徳のその事には触れずに靴を履き替えていた。


「今日はまっすぐ帰る事にするかい?」

「まー君はどこか行きたい場所あるのかな?」

「行きたい場所ってか、田中の家にノートのコピーでも持っていこうかなって思ってたんだよね」

「田中君っていつもまー君と一緒にいる人?」

「そうだよ。今日は休みだったからさ」

「まー君は私だけじゃなくて友達にも優しいんだね」


 私以外の女の子に優しくしている姿は見たことが無いんだけど、男の子には優しいのかも。男同士で恋愛感情とか持たないだろうけれど、一応田中君の事も探ってもらった方がいいかもね。とにかく、不安な事は少しでもなくしておいた方が良いって思うからね。


 まー君の横を歩いて帰る道は普段と同じようで、全然違って見えるから不思議だな。昨日とも違うように感じていたけれど、明日ももっといい日になるといいな。

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