第27話 授業が始まるよ 佐藤みさきの場合
まー君と二人で登校しようと思っていたのに、愛ちゃん先輩が空気を呼んでくれないから二人っきりになれないよ。明日からも邪魔されそうだし、帰ったらお姉ちゃんに相談してみようかな。でも、お姉ちゃんは役に立たなそうだから期待しないでおこう。
「愛ちゃん先輩までなんでまー君にくっついてるの?」
「みさきタンが手を繋いでくれないから、前田にくっつくことで間接的にみさきタンと繋がれるからだよ」
「そんなこと言って、本当はまー君の事が気に入ったんでしょ?」
「それは無いけど、みさきタンが前みたいに私と手を繋いでくれたら離れるよ」
「うーん、まー君を取られそうで心配だったけど愛ちゃん先輩なら大丈夫かな」
愛ちゃん先輩は時々変な事を言うんだけど、そのほとんどが理解不能なんだよね。私と手を繋ぎたいからってまー君に抱き着くのは違うと思うんだよね。私からまー君を取ろうとしているわけでもないみたいだし、本当に何がしたいんだろう?
「ねえ、みさきタンは今日のお昼私と一緒に食べようよ。前田も誘っていいからさ」
「まー君と二人がいいんだけど、どうして?」
「気持ちはわかるけれど、一年生カップルが堂々とどこで昼食デートする予定なのかな?」
「それは考えてなかったけど、どっちかの教室とかかな?」
「みさきタンはそれでいいかもしれないけど、前田はどうかな?」
せっかくまー君のためにお弁当作ったのに、先輩たちと食べてしまうと特別感が無くなってしまいそうだな。それでも、食べてもらえるのは嬉しいけどね。本来なら二人っきりで食べたいところではあるけれど、学校内のどこでなら邪魔されずに済むのかな。ところで、まー君はどうなんだろう?
「そうですね、俺は二人でも全然かまわないですけど」
「そっか、それでもいいんだけど、私達と一緒に食べた方が楽しいと思うんだけどな」
愛ちゃん先輩はしきりにまー君に何かアイコンタクトを取ろうと知るけれど、二人が知り合ったのってさっきだよね?
何だろう、二人はどこか通じ合っているように感じてしまうよ。そんなことは無いってわかっているのに不安になっちゃうよね。
「そうですね、一緒に食べるのもよさそうですけど、私達ってどういう意味ですか?」
「ああ、私はいつもアリスと一緒に食べてるんだけど、その仲間に入れてあげようって話なのさ。アリスは知ってるだろ?」
アリス先輩は私が小学生の時に何度か遊んでもらったことがあるんだけど、その時は可愛いなって思っていたのに、今ではすっかり大人の魅力一杯の美人なお姉さんって感じになっているよね。愛ちゃん先輩も体の一部が大人ってより、人間の限界を超えている気がするけれど、やっている事は基本的に子供っぽかったりするんだよね。
「ああ、何となくならわかるかもしれません。金髪の外国人の人ですよね?」
「そうだよ。アリスは前田とも仲良くしてくれると思うけど、みさきがいるんだから好きになったらダメだぞ」
「なんでみさきがいるのに他の人を好きになると思うんですか?」
まー君は私の告白に流されただけなのかって最初は思っていたけど、他の人にも私の事が好きだって言ってくれるのは嬉しいな。今だけじゃなくいつでもそう答えてくれるのは彼女でいる自信になるよね。でも、付き合ったその日に家に誘われた時はちょっと戸惑っちゃった。
「ま、それならそれでいいんだけどね。じゃあ、昼休みになったら校門脇にはえてる桜の木のところで集合な。まだサクラには早いけど、そのうち花見でもしながら食べような」
昔から愛ちゃん先輩は私が何かを言う前に物事を決めていたっけな。その事でお姉ちゃんと喧嘩になったりもしていたけれど、必ずどっちかが折れていて、丸く収まっていたんだよね。私も少しは反論できるようにしておかないと、本当にまー君を取られてしまいそうだな。
「一人で桜の木の下に行くのは怖いから、昼休みになったらまー君を迎えに行くね」
「うん、わかった。でも、購買に寄ってからでいいかな?」
「飲み物でも買うの?」
「いや、今日はパンの日なんで食べ物買わないといけないからさ。いつもならコンビニよって買ってるんだけどね」
「今日はお弁当じゃないの?」
「今日は父さんが弁当じゃない日なんで俺も弁当ないんだよ」
「そうなんだ、ちょうどいいね。私のお弁当を分けてあげるから買わなくていいよ」
「悪いから買うよ。二人で食べたら後でお腹空いちゃうかもしれないしさ」
「大丈夫だよ。二人でも食べきれるかどうかって量があると思うし、まー君は私のお弁当食べたくないのかな?」
「いや、それならいいんだけど、みさきのお弁当が食べられるなら幸せだと思うよ」
もう、食べたいなら遠慮しなくてもいいんだよ。私だってまー君に食べてもらうために作ったんだし、これからはちゃんとお弁当を作っていいか確認しないとね。どんな食べものが好きなのかわからないから、今回は色々と入れてしまったけれど、好きなものと栄養バランスを考えて作りたいな。
でも、本音じゃないとしても断られるのはちょっとだけショックだったな。
「じゃあ、昼休みに桜の木の下で待ってるな」
「他の人がいたらどうするんですか?」
「まだ寒いのに外で食う奴なんていないだろう」
あんまり寒いの得意じゃないんでまー君にくっつきたいんだけど、アリス先輩の前だとそう言うのも気が引けちゃうよね。好きな人が近くに居ても何も出来ないってのは辛いだろうし、きっと家でもそんな関係にはなってないだろうからね。
それにしても、三人で固まって歩くのは意外と大変なのね。歩幅がみんな違うからぎこちない歩き方になっているし、他の人はどんどん追い抜いていくし、ほとんどの人がまー君の腕に押し付けている愛ちゃん先輩の胸を見ているのも腹立たしい。私にも一割で良いから分けて欲しいものだわ。
今日は珍しく校門前で服装検査をしているみたいね。私達は制服に関してはちゃんとしているし、何かやましいものなんて持ち込んでいないので関係ないんだけど、先生の横にいる女子生徒がやたらとまー君を見ている気がするわ。特におかしなところは無いようだけど、あの女もまー君狙いなのかしら?
なんて思いながらも挨拶をすると、当然ではあるのだけれど、三人とも検査なしで通過できた。先生の横にいる女は何か納得していないような感じだったけど、先生が良しって言ったなら問題ないはずよね。
「先生、あの三人を通して良かったんですか?」
「どこか身だしなみでおかしなところがあったか?」
「いえ、身だしなみは問題なかったと思いますけど、三人が腕を組んで登校しているんですよ。風紀的にも倫理的にも良くないと思うんですけど」
「あのな、守屋。今回は抜き打ちの服装検査なんだぞ。服装以外の事で止めてしまったとして、その間に違反者が素通りしてしまったら本末転倒だとは思わないのか?」
「いや、それとこれとは話が違うと思うんですけど。あんな小ハーレムを形成している男って怪しいでしょ」
「あの三人がどういう関係なのかは先生にもわからないが、守屋が想像しているような関係ではないと思うぞ」
「でも、あんなのは高校生として以前に人として変だと思います」
何だ、ただの嫉妬か。きっと恋人がいない寂しい青春時代を送っているのね。私も昨日の夕方までは同じ境遇だったからわかるわ。
「まー君どうしたの?」
「さっきに女子なんだけどさ」
まー君って私がいるのに他の女の事にも興味があるのかしら?
私だけの存在になってくれればどんなにいい事だろう。でも、それはきっと無理な話なので、心の中だけに秘めておこう。
それにしても、あの女の事も少し調べてみないといけないようね。
「まー君はあんな感じの子が好きなの?」
「いや、そう言うんじゃなくて。あの女子ってうちのクラスの人に似てるような気がしてたんだよね」
「そうなんだ、まー君のクラスにどんな人がいるのか把握しとくね」
まー君の視線や息遣いなんかを見ている限りではあるけれど、あんまり興味を持っている感じには見えないから、本当にクラスメイトに似ているって話なのね。私もお姉ちゃんがいるわけだし、あの女に妹がいたとしても不思議ではないわね。
と思っていたら、まー君と愛ちゃん先輩がいなくなっちゃった。少し考え事してるだけで目の前から消えるなんて、忍者なのかしらね。そんなわけないと思っていると、まー君は私の前に帰って来たよ。
「大丈夫?」
「何が?」
「愛ちゃんにまた連れていかれてたみたいだけど、変な事されてない?」
「ああ、昼休みの約束守れよって言われただけだよ」
愛ちゃん先輩が何かするとしても、人目につかないところだろうし、こんな目立つ場所で何かするわけないんだよね。でも、用心することに越したことは無いので、私は少しだけまー君に私の良さをわからせてみよう。
さっきとは反対の腕に抱き着いてまー君から愛ちゃん先輩の記憶を消して、私が抱き着いた記憶を植え付けてやろう。あの無駄に大きい胸はそんな簡単に忘れられないと思うけど、私にだって少しはあるんだし大丈夫なはず。きっとね。
これからお昼までにも何かありそうだけど、クラスが違うから見張る事も出来ないのよね。どうしたらいいのか考えてみたけど、まー君のクラスに紛れ込むのが一番正解に近いんじゃないかな?
「みさきってこのクラスじゃないよね?」
「あ、そうだった。まー君の事ばかり考えてたから間違えちゃったかも」
と、作戦は失敗したんだけど、何とかなるでしょ。それに、まー君の良さに気付いている女子は全然いなそうだから安心して過ごせそうね。
まー君のクラスから出る時に何人かの女子が席を立ったのが気になったんだけど、廊下から見ていたらまー君の席に集まってるじゃないの。会話はハッキリとは聞こえてこないんだけど、私と愛ちゃん先輩の話になっているみたいね。当初の目的とは違ってるんだけど、学校中に私はまー君と付き合っているってアピール出来たんじゃないかな。
まー君の様子をもう少し見守りたいんだけど、うちのクラスの人達も次々と登校してきていてて、そろそろ引き上げた方がいいかもしれないわね。
そう思って見ていると、中山さんが私の横にいつの間にか来ていた。
「アレがみさきの彼氏か。クラスでも噂になってたけど、良い人そうだね」
「良い人だけど、あげないわよ」
「あはは、私は彼氏いないけどそんなに欲しいって思わないから安心していいよ。みさきって素直ないい子だよね」
中山さんは他の人よりも心の距離を詰めるのが早すぎると思うんだけど、そのお陰でクラスの人とも話せるようになったし、少しは感謝しておかないとね。まー君はあげないけどさ。
「あ、あの胸の大きい子がみさきの彼氏のスマホを取って何か操作してるよ」
「あんな風にとられるなんて何やってるのよ。あとで怒った方がいいかな?」
「どうなんだろ? でも、こうやって覗いてたのがバレちゃうけど」
「それはちょっと困るわ。あんまり重い女って思われたくないし、良い彼女でいたいから黙っておくことにするわ」
とりあえず、黙っているのも何なので、まー君にメッセージを少しだけ送っておくかな。中身までは見ないとしても、あの女が捜査しているのを邪魔する事くらいは出来るはずよね。
「うわ、覗き見するのは良くないと思ってるんだけど、そんなにメッセージ乱発しない方がいいんじゃない?」
「そうね、あんまりしつこいと嫌われちゃうかもしれないし、これくらいにしておいた方が無難よね」
「……みさきって、結構アレな人なんだね」
「アレってどれよ?」
廊下にいる人も少なくなってきたし、自分の教室の席につこうかしら。まー君が何をやっているのか気になるけれど、私は信じているからね。
まー君が変な事に巻き込まれませんように。
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