第17話 Living Date 前田正樹の場合

 自分の部屋からゲームを持ってこようと思っていたのだけれど、いつもの場所にあるはずのゲームが無くなっていたので探してみたのだけれど、俺の部屋では見つけられなかった。いつまでも探してみさきを待たせるのも申し訳ないと思うので、本体ストレージの中にゲームが何本かダウンロードしてあるし、それで少しの間時間を潰しておいてもらおう。

 俺は本体を持って部屋から出ると、鍵をかけてそのままリビングへと向かった。そもそも、鍵がかかっている部屋から勝手にゲームを持ち出すことなんて出来ないのだし、前に使ったと思われる唯か母さんの部屋にあると思うので、みさきにゲームを渡したらそっちを探してみることにしよう。


「ちょっと探し物してくるのでこれで遊んでてもらっていいかな? 中にはダウンロード版のゲームが入っているから好きなのやってていいよ」


 みさきにゲームを渡すと普通に電源を入れていたので、このゲーム機は少なくともやった事があるようだった。もしかしたら、持っているかもしれないので、その時は一緒に遊ぶときに説明も最小限で済みそうだと思った。

 何のゲームをやるのか興味はあったけれど、今はそれよりも先に目的のゲームソフトを回収しておかなくては。まずは唯の部屋から探してみることにしよう。

 唯の部屋の前に着いたのだけれど、礼儀としてノックをすると返事が返ってきたのでそのままドアを開けて中を覗いてみた。ぱっと見ではゲームソフトは見当たらなかったけれど、そんなに簡単に見つけられるほど大きいものでもないので部屋の中を探すことにしよう。


「一昨日くらいに一緒にやってたゲーム知らない?」

「みさき先輩と一緒にやるの?」

「そうだけど、アレは皆で出来るから唯もおいでよ」

「そっか、私も誘ってもらえるんだね。じゃあ、電話終わったら行くよ」

「で、ゲームは持って行ってないの?」

「ソフトだけあっても出来ないよ」


 それもそうかと思ったけれど、唯は俺の物を勝手に持っていく癖が小さい時からあって、今でもそれが抜けていないらしく、リビングにちょっと置いといた物がちょいちょいなくなっていたりした。

 それでも一応無いかと探してみると、いつの間にかなくなっていたペンが出てきたりしたのだけれど、肝心のソフトは見つからなかった。


「これから着替えて電話しようと思っているんで、もういいかな?」


 俺は一通り探してみたけれど見つからなかったので諦めてリビングに戻る事にした。唯の部屋にないとするとリビングか母さんたちの部屋にあると思うのだけど、確率的にはリビングの方が高いだろう。

 リビングに戻ってみさきがやっているゲームを覗いてみたのだけれど、絵柄は可愛いのに難易度が高いゲームをやっていた。多分、一面もクリアできないと思うのだけれど、最初はそんなもんだろう。


「ああ、そのゲームはセールの時に買ってみたんだけど、意外と難しいよね。クリアするまで結構時間かかったよ」

「ゲーム得意なの?」

「得意って程じゃないけど、暇な時に遊んでたら一気に時間過ぎてる事があるから、得意よりも好きなだけかな」

「そうなんだ、じゃあ、私とゲームならどっちが好き?」


 ゲームとみさきのどっちが好きか聞かれたけれど、正直に言うとそこまでゲームが大好きだというわけではなかった。みさきの事を好きだと自信を持って言えるくらいの気持ちも持っていたわけではないし、そもそも知り合ったのが今日だってこともあって即答は出来ないでいた。

 前に何かで見た気がするけれど、このような質問はどちらも選ばない答えの方が正解に近いらしい。そうなると一緒に遊べばいい的に答えるのがベストだろうか?


「そうだね、正直比べる者ではないと思うけれど、好きなみさきと好きなゲームを一緒に出来たら幸せだと思うよ」


 みさきの反応を見ている限りでは、この回答は不正解ではなかったみたいだ。正解なのかはわからないけれど、限りなく正解に近い回答は出来たようだ。


「ありがとう。私もこのゲーム機持ってるんだけど、私が持っているゲームと違うのがあって面白いね」

「みさきもこれ持ってるんだ。じゃあ、今度遊ぶときは一緒に同じゲームやってみようよ」

「うん。でも、帰ってからも一緒に出来たら嬉しいから、フレンド申請してもいいかな?」

「OK。登録したら一緒にオンラインでも遊べるね」

「あ、お姉ちゃんと一緒に使ってるから私じゃない時があるかもしれない。ゲームやる前に連絡貰ってもいいかな?」


 みさきはそのままスマホの操作をしていたのだけれど、ゲームのホーム画面に通知が届いていて、それを開くとフレンド申請が着ていた。

 そのまま許可をしてフレンドになったのだけれど、ゲーム機が無くてもフレンドになることが出来るのは便利だと思った。出先で誰かと約束したとしても、家に帰ってからでは忘れることも多いだろうし、この機能は便利だ。でも、上手く断れない時の逃げ道はなさそうだとも思った。


「俺のは個人のだけど、たまに唯とか母さんがやっている時あるから、その時は一緒に出来ないかもしれないんでごめんね」

「大丈夫だよ。ゲームだけで繋がってるわけじゃないしね。ゲームが無くても一緒だよ」


 俺は持ってきていた追加のコントローラを充電器にセットしてみると、そこに探していたゲームソフトが置いてあるのを見つけた。これが見つかったのでみんなでゲームが出来るな。いつかこのゲームがセール対象になった時には、ダウンロード版で買いなおすことにしよう。


「じゃあ、テレビに繋いでゲームやろうか。対戦と協力だったらどっちがいいかな?」

「私はあんまり協力の奴やったことが無いから対戦がいいかな」

「OK。俺はオンラインでしかやってないから隣に誰かいるのが新鮮だよ。じゃあ、二人が戻ってくるまで戦っていようか」


 そう言えば、同い年の女子と一緒にゲームをするのは初めての気がするな。俺はゲームはそんなに好きじゃないけれど、やっている時間は長い方だと思うのでみさきよりは上手な予感がしているし、どのゲームでも負けないだろう。

 とりあえず、やったことありそうなゲームを選んでみたのだけれど、みさきもこれはやった事があるようで安心した。


「みさきはどのキャラ使うの?」

「私はいつもコレかな」

「へー、何となくみさきっぽくていいね。じゃあ、俺はこいつにしよう」


 何となくみさきが好きそうなキャラだとは思ったのだけれど、俺はとりあえずネット対戦ではめられたことのあるキャラを選んでみた。

 対策が出来ないと何も出来ずに終わる攻撃があるのだけれど、対策をされたら何も出来ずに負けてしまう。そんなキャラがいてもいいだろうと言った感じで作られたキャラなのだが、みさきはそれを知っているのだろうか?

 少しだけ負けそうな場面も出てきたけれど、俺は何事もなかったかのように立て直すと一度も負けずにゲームを変えることにした。

 一方的すぎると次につながらない事は唯との対戦で知っていたからだ。


「まー君はゲーム上手いね。私はあんまり戦うのは得意じゃなかったよ」

「だろうね。女の子はあんまり争うのが好きじゃないみたいだし、もう少し平和的なのやってみようか」


 野球は一方的に攻撃が続くかもしれないのでサッカーのゲームを選んでみた。

 みさきはこのゲームはやったことが無いらしく、一通り操作方法を教えてみると、それなりにゲームをやっているためかあっという間に基本操作を覚えていた。時々ボタンを間違えているようではあったけれど、それでも何とか形にはなりそうだった。

 結果的に俺が圧勝することになったのだけれど、みさきはどこか満足そうな顔で次のゲームを選んでいた。


「えっと、やったこと無いゲームは難しいね。……このレースゲームならお姉ちゃんとよくやっているよ。下手な人でもそれなりに楽しめるしね」

「あ、うん。ゲームは楽しくてなんぼだしね。このゲームやっちゃおうか」


 俺は負けることが好きではないのだけれど、純粋にゲームを娯楽と楽しんでいるように感じるみさきは負けても平気なようだった。俺も小さい時は勝ち負けよりも自分がキャラクターを動かしている事で喜んでいたような気がする。

 みさきが選んだキャラはコーナー適性が高いキャラで初心者にも安心なキャラだ。


「へえ、そのキャラならあのコースやってみようか」


 みさきが選んだキャラなら大丈夫だろうと思って、難易度の高めで一周くらいの差なら逆転できそうなコースを選んでみた。ショートカットするためにはある程度のスピードも必要なので排気量は最高を選んでおく。

 ゲームを楽しんでもらえるのに必要なのは、お互いに本気を出すことだと思っているので、最初の一周はハンデとして止まっておこう。でも、みさきがショートカットを使うようなことがあったなら、そのハンデは無かったことにして次のレースで最初から真面目に戦う事にする。

 みさきの走りを一周じっくり見たけれど、タイミングが遅かったり早すぎたりでそれほどやり込んではいない様子だった。もしかしたら、排気量が高いクラスではあまりやっていないのかもしれないけれど、ショートカットを成功させるためなので仕方ない。

 そろそろみさきが迫ってきたので俺も準備をするのだけれど、ロケットダッシュを決めることが出来ない状況なのでイマイチ加速が鈍い。

 それでも、最高速に結構な差があったので直線になると追いついてしまっていた。

 アイテムはとりあえずキープするとして、次のポイントで手に入れたアイテムを使ってショートカットするとあっという間にみさきに追いついていた。

 アイテム運に恵まれたこともあるけれど、予想よりも早く追い抜いてしまっていたので、このまま上の順位を目指すことにした。何となく後ろに投げた今は必要ないアイテムがみさきに当たってしまったような気がするけれど、前に投げて俺に当たるよりはマシだろう。

 次に手に入るアイテム次第では優勝できる可能性も高そうではあったけれど、その可能性はほとんど無いに等しいだろう。上手い子と手に入ったアイテムを駆使して何とか二位まではきたのだが、首位との差は思っていたよりも広がっていたため逆転は厳しそうだ。

 最後のアイテムを使って無敵状態になると、そのままスピードを落とさないように曲がって最終コーナーに入る直前に誰かがアイテムを使っていた。

 俺以外のキャラがダメージを受けてスピンしていたのだけれど、首位を走っていたキャラがスピンしたままコースアウトしてスピードが落ちたことで、俺は何とか逆転で優勝することが出来た。

 みさきの方の画面を見てみると、みさきのキャラはダメージを受けていなかった。俺の優勝のアシストをしてくれたのはみさきだった。


「みさきのアシストが無かったら優勝できなかったよ。ありがとうね」

「え、ああ。どういたしまして。せっかくだから優勝してもらいたかったんだよ」

「いつもはもっと余裕あるんだけど、今回は正直危なかったね」


 みさきと二人で競争するだけなら一周の差でもお釣りは来ると思うのだけど、CPUもいるとしたらそこまでのハンデは必要なさそうだ。


「デート中にお邪魔してごめんね」


 電話が終わった唯がリビングに戻ってきたのだけれど、お客様が来ているのにそのジャージはまずいだろう。

 みさきの反応を見てみたのだけれど、このジャージの事は知らないようだった。とりあえず、唯が変な目で見られなかったことは良かったことにしておこう。


「用事終わったのか?」

「うん、電話だけだったから大丈夫」

「じゃあ、母さんが来るまで三人で遊んでようか」


 次のゲームの準備をしていると、唯がみさきを呼んで何か内緒話をしているようだった。どうせ協力して俺と戦おうとかそんな話だとは思うけれど、唯とみさきが組んだとしても俺は負ける気がしていなかった。

 集中力は大会けど持続力のない唯が苦手なゲームを選んでやろう。

 本人は序盤は強いので得意だと勘違いしているけれど、最終的には集中力が無くなって大差がついているのは運が悪いと思っているので、唯がそれに気付かない限り俺は負けることもないだろう。

 みさきが得意なのかはわからないけれど、今までの傾向から俺が負ける確率はそれほど高くなさそうだし、早めに実力を見極めることにしよう。


「唯ちゃんの着ているジャージってこの辺の学校のじゃないよね?」

「え。そうですね」

「あんまり店でも見たこと無いデザインだけど、どこの学校のジャージなの?」

「えっと、これは、その、私がお兄ちゃんの次に好きな人のジャージです」

「彼氏に貰ったの?」

「いや、彼氏ってわけでもなくて。私が一方的に好きって言うか」

「そうなんだ。でも、好きな人と同じもの身につけたいって気持ちはわかるかも」

「そうですよね。みさき先輩ならわかってくれると思ってました」


 みさきはやっぱりこのジャージが何なのか知らないみたいだったので教えて上げよう。


「それはアニメのキャラと同じジャージだろ」


 俺が教えて上げると、みさきは何か納得したような感じになっていた。

 唯は恥ずかしくなったのか俯いていたのだけれど、みさきは唯を包みこむように抱きしめていた。俺にはそんなこと出来そうもないなと思って見たいた。


「お兄ちゃんに絶対に勝ちましょうね。私とみさき先輩のコンビネーションでビビらせてやりましょう」


 唯とみさきが一致団結したのは気になるけれど、それくらいしてくれないと勝負にはならなそうだし、特別問題もないだろう。


「そうだ、むっちゃんから聞いたんだけど、夏休みとか冬休みじゃなくてゴールデンウイークの後にも全校集会をやっている理由って知ってた?」

「そう言えば、なんで授業じゃなくて全校集会で一日が終わるのかと思ってたよ」

「俺も理由は知らないけど、なんでなのかは気になってた」


 唯は突然立ち上がると、俺とみさきの耳元で囁いてきた。


「お兄ちゃんたちの学校って、二年前に生徒が二人亡くなったらしいんだけど、一人は夏休み中に事件に巻き込まれてて、もう一人はゴールデンウイーク中に自殺したらしいよ。今の三年生の人に聞いたらわかると思うんだけど、それが理由でゴールデンウイーク明けにも全校集会を開くんだってさ」


 田中が何となくそんな事を言っていたような気がしたけれど、俺はそんな事にあまり興味が無かったのでゲームに戻りたかったのだが、みさきはその話に興味があるようだった。

 明日学校に行った時にでも田中に聞いてみようかな。それをみさきに話してあげたら喜んでもらえそうだとは思った。

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