第16話 Living Date 佐藤みさきの場合
広いリビングで一人待っていると、何かを確かめるようにゆっくりと扉を開けながらまー君が戻ってきた。何かを探しているようだったけれど、見たところ何も持っていないようだったので何を探しているのかはわからなかった。
「ちょっと探し物してくるのでこれで遊んでてもらっていいかな? 中にはダウンロード版のゲームが入っているから好きなのやってていいよ」
そう言ってゲーム機を渡してくれたのだけれど、私もお姉ちゃんとやる事が多いゲーム機だったので、同じものを持っているという事実が嬉しかった。私はどんなゲームをやっているのか見てみたのだけれど、みんなで出来るゲームは一通り入っているようだ。まー君が一人でやるようなゲームを見てみたのだけれど、私とはあんまりゲームの趣味が合わないようだった。
趣味が合わないなら合わせてしまえばいいだけじゃないか。そう思って一通りゲームを確認してタイトルをスマホに入れておくことにしよう。それと、まー君が戻ってきたらフレンド申請していいか聞いてみようかな。
私がやった事のあるゲームも多かったけれど、一度もやったことが無いけれど気になっていたゲームがあったので、それを少しだけやってみることにした。
絵柄は何となく軽い感じなのに、操作感覚や判定がかなりシビアらしく、一面をクリアする前にまー君が戻ってきてしまった。もう少しでクリアできそうな感じだったけれど、アクションが苦手な私はこれから先に進んでも、クリアできる気がしなかった。
「ああ、そのゲームはセールの時に買ってみたんだけど、意外と難しいよね。クリアするまで結構時間かかったよ」
「ゲーム得意なの?」
「得意って程じゃないけど、暇な時に遊んでたら一気に時間過ぎてる事があるから、得意よりも好きなだけかな」
「そうなんだ、じゃあ、私とゲームならどっちが好き?」
付き合ったばかりだし、何だったら私から告白したんだからまー君がそこまで私の事を好きなのかもわからないのに、とんでもなくめんどくさい事を聞いてしまったと後悔してしまった。後悔しちゃったし、悲しい答えだったとしても私が悪いんだからまー君は悪くないんだよ。
「そうだね、正直比べる者ではないと思うけれど、好きなみさきと好きなゲームを一緒に出来たら幸せだと思うよ」
あああ、予想していた答えよりも素敵な答えが返って来たわ。正直、嫌われても仕方ないと思うけれど、まー君はやっぱり優しいな。
「ありがとう。私もこのゲーム機持ってるんだけど、私が持っているゲームと違うのがあって面白いね」
「みさきもこれ持ってるんだ。じゃあ、今度遊ぶときは一緒に同じゲームやってみようよ」
「うん。でも、帰ってからも一緒に出来たら嬉しいから、フレンド申請してもいいかな?」
「OK。登録したら一緒にオンラインでも遊べるね」
「あ、お姉ちゃんと一緒に使ってるから私じゃない時があるかもしれない。ゲームやる前に連絡貰ってもいいかな?」
私は自分のスマホを出してゲームのアカウントを確認すると、まー君のゲーム機からフレンド申請をしておいた。ゲーム機は無いけれど、スマホのアプリですぐに許可したので、ゲームの中でも今からずっと一緒だね。
「俺のは個人のだけど、たまに唯とか母さんがやっている時あるから、その時は一緒に出来ないかもしれないんでごめんね」
「大丈夫だよ。ゲームだけで繋がってるわけじゃないしね。ゲームが無くても一緒だよ」
まー君は追加のコントローラを二つ持ってきていたのだけれど、これから四人で何かやるのかな?
そのわりには唯ちゃんもまー君のお母さんも姿が見えないんだけど、これから集まってやるのかな?
「じゃあ、テレビに繋いでゲームやろうか。対戦と協力だったらどっちがいいかな?」
「私はあんまり協力の奴やったことが無いから対戦がいいかな」
「OK。俺はオンラインでしかやってないから隣に誰かいるのが新鮮だよ。じゃあ、二人が戻ってくるまで戦っていようか」
まー君が選んだゲームは子供から大人まで大人気のゲームで、登場人物数も多く各世代の人が必ず好きなキャラがいると言っても過言ではないくらいのボリュームがある。私も持っているんだけど、お姉ちゃんが強すぎるからなのか私が弱すぎるからなのか、最後に勝ったのがいつなのかわからないくらいの腕前で、まー君がどれくらい強いかわからないけれど、私はきっと勝てないと思うな。
「みさきはどのキャラ使うの?」
「私はいつもコレかな」
「へー、何となくみさきっぽくていいね。じゃあ、俺はこいつにしよう」
私自身が褒められたわけではないんだろうけど、可愛い女の子でお姫様なキャラを選んだらまー君に褒められた。良いところを見せてもっと褒められたらいいな。
私は何が起こっているのかわからなかったけれど、私の攻撃が一度も当たることなくあっさりと勝負がついてしまった。アイテムを取ろうとしても攻撃され、攻撃をしても交わされて攻撃され、気付いた時には何も出来ずに終わっていた。
そんなことが数回続くと、まー君も気を使ったのか私の攻撃が当たるようになってきていた。のだけれど、まー君が思っているよりも攻撃が当たったのかわからないが、私の攻撃が途切れると、先ほどよりも何も出来ないくらい一方的に試合が進んでいった。
「まー君はゲーム上手いね。私はあんまり戦うのは得意じゃなかったよ」
「だろうね。女の子はあんまり争うのが好きじゃないみたいだし、もう少し平和的なのやってみようか」
次に選んでくれたのはサッカーのゲームだった。私は本当にやったことが無いので簡単に操作方法を教えてもらったのだけれど、ゲームが始まるとまー君のコントローラがいつの間にか変わっていた。
結局のところ、サッカーゲームでも私は点を取ることが出来ずに終わった。最後に出てきた支配率ってやつが三割にも満たなかったのだけど、それ以上に実力が開いているような感じでした。
「えっと、やったこと無いゲームは難しいね。……このレースゲームならお姉ちゃんとよくやっているよ。下手な人でもそれなりに楽しめるしね」
「あ、うん。ゲームは楽しくてなんぼだしね。このゲームやっちゃおうか」
私はそれなりにやっているゲームだったの自身もあったのだけど、今の感じだとまー君は相当な実力を持っているに違いない。私は最高速を犠牲にしてもミスしなければ何とかなると思い込んでいるので、コーナリングが得意なキャラを選んでみた。
「へえ、そのキャラならあのコースやってみようか」
まー君が選んだコースは私が一位になったことのないコースだった。排気量もなぜか一番高いクラスを選択していた。私はどうしても勝てる要素が見えなかった。
でも、奇跡が起こっていた。一週目のゴール手前でも最下位ではないという奇跡が起きた。このままだと最下位は免れる。そう思っていると、スタートラインから動いていなかったまー君がゆっくりと加速して徐々に私との差を詰めているようだった。
それもそのはず、まー君が獲得するアイテムは最下位特権なのかわからないなけれど、どれも妨害性能が高いものばかりで、二週目が終わって三週目に入った時には順位が逆転してまー君から私が最下位を奪ってしまっていた。
私を抜いて行った時にまー君が後ろに投げた緑の物体が私にクリーンヒットしてしまい、そのまま下に落下していたのだけれど、この時点で私は勝てる確率が無くなったことを確信した。
あとはいかに安全にゴールするかに注意していたのだけれど、まー君の方の画面を見てみると、いつの間にか三位まで順位が上がっていて、ゴールまでもう少しのところで全員に対して衝撃を与えるアイテムを使って順位を一つ上げて二位になり、そのまま無敵アイテムを使って追い上げていたのだけれど、一位との差は思ったよりも詰まっていなかったのでこのまま終わってしまうと思っていた。
しかし、私もまー君と同じアイテムを手に入れてしまったので使ってみると、一位のキャラが衝撃で曲がり切れずにそのままコースアウトしていて、その隙をついて距離を詰めてまー君が逆転して、優勝していた。
「みさきのアシストが無かったら優勝できなかったよ。ありがとうね」
「え、ああ。どういたしまして。せっかくだから優勝してもらいたかったんだよ」
「いつもはもっと余裕あるんだけど、今回は正直危なかったね」
私は負けてしまったし、必要以上に攻撃されたような気もしているけど、楽しかったからいいかな。でも、難しいコースを選んだ上に周回遅れで逆転するって、どんだけこのゲームをやり込んでいるんだろう?
「デート中にお邪魔してごめんね」
先ほどとは違う服装の唯ちゃんが戻って来たんだけど、部屋着姿の唯ちゃんも可愛いな。見たこと無いブランドのジャージだけどどこの学校だろう?
「用事終わったのか?」
「うん、電話だけだったから大丈夫」
「じゃあ、母さんが来るまで三人で遊んでようか」
やっぱり四人で遊ぶのか。唯ちゃんもまー君みたいにゲームが上手だったら困るな。何とかして最下位は回避しておきたいけど、運だけで勝てるゲームなら何とかならないかな。
「みさき先輩、みさき先輩。ちょっといいですか?」
「どうしたの?」
「お兄ちゃんとゲームしててわかったと思うんですけど、お兄ちゃんってちょっとゲームのやり方汚くないですか?」
「はは、それはちょっと思ったかも」
「私はいっつもゲームやるとボコボコにされてるんですけど、私と協力してお兄ちゃんと戦いません?」
「私はそんなにゲーム得意じゃないけど大丈夫かな?」
「大丈夫です、二人で妨害してお兄ちゃんがイライラしたところで追い打ちをかけましょう」
まー君は普段から唯ちゃんとゲームをしているのか。ちょっとうらやましいけど、今日の夜からはオンラインで私も一緒に出来るからいいや。通話しながらゲームしたらもっと仲良くなっていけるかもしれないし、その時は唯ちゃんも一緒に出来たらいいな。
それと、もう一つ気になっていることがあるんで、聞いてみようかな。
「唯ちゃんの着ているジャージってこの辺の学校のじゃないよね?」
「え。そうですね」
「あんまり店でも見たこと無いデザインだけど、どこの学校のジャージなの?」
「えっと、これは、その、私がお兄ちゃんの次に好きな人のジャージです」
「彼氏に貰ったの?」
「いや、彼氏ってわけでもなくて。私が一方的に好きって言うか」
「そうなんだ。でも、好きな人と同じもの身につけたいって気持ちはわかるかも」
「そうですよね。みさき先輩ならわかってくれると思ってました」
「それはアニメのキャラと同じジャージだろ」
何となく気付いていたけれど、まー君の一言で唯ちゃんは下を向いて固まってしまった。私も小さい時に魔法少女のパジャマとか着てたから気持ちはわかるよ。そんな思いで唯ちゃんを抱きしめると、ほのかに良い香りがしてきた。
「お兄ちゃんに絶対に勝ちましょうね。私とみさき先輩のコンビネーションでビビらせてやりましょう」
唯ちゃんは私の事を去年から知っていたみたいだけど、私は今日初めて知ったわけだし、コンビネーションと言われても困るけれど、出来るだけ最善を尽くすことにしよう。
「そうだ、むっちゃんから聞いたんだけど、夏休みとか冬休みじゃなくてゴールデンウイークの後にも全校集会をやっている理由って知ってた?」
「そう言えば、なんで授業じゃなくて全校集会で一日が終わるのかと思ってたよ」
「俺も理由は知らないけど、なんでなのかは気になってた」
少しの間を開けて唯ちゃんが立ち上がると、腰を曲げて私たちの耳と耳の間に顔を入れてきて小さい声でつぶやいた。
「お兄ちゃんたちの学校って、二年前に生徒が二人亡くなったらしいんだけど、一人は夏休み中に事件に巻き込まれてて、もう一人はゴールデンウイーク中に自殺したらしいよ。今の三年生の人に聞いたらわかると思うんだけど、それが理由でゴールデンウイーク明けにも全校集会を開くんだってさ」
その話は初耳だったけれど、お姉ちゃんが三年生だから聞いてみたら何かわかるかもしれない。唯ちゃんの話が本当なのか嘘なのかはわからないけれど、まー君はこの話にイマイチ興味が無さそうだという事だけは私にもわかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます