第8話 勉強会 前田唯の場合

 こうして見ていると、お兄ちゃんとみさき先輩はお似合いのようにも見えてしまうけど、私の方がお兄ちゃんにはお似合いだとは思うんだよね。みさき先輩は気遣いも出来るし見た目も凄い美人だし、性格もきっと悪いところなんてないんだろうから、お兄ちゃんじゃなくてもお似合いの人はたくさんいると思うんだよね。


「勉強だけだと集中できないかもしれないんで、時々休憩を入れておこうね」

「休憩って何するのかな?」

「ゲームとかだとそっちに集中しそうだし、手ごろなところで唯の卒アルでも見とこうか」

「ちょっと、お兄ちゃん。私の卒アルじゃなくて自分のを見せなよ」


 お兄ちゃんは私の卒アルと文集を初めてみた時から私の事をからかうんだけど、それっていつもとは違って可愛く写ってないからなのかな?

 お兄ちゃんが望むなら卒アルくらい見せてもいいんだけど、みさき先輩にも見られるのは少し恥ずかしいかも。でも、私の卒アル見たらみさき先輩も見せてくれなきゃおかしいよね。そう思ってみたら、卒アルくらい見せてもいいかも。


「私は唯ちゃんの卒アル見たいかも」

 そうやって乗ってくれると私もみさき先輩の見やすくなるかも。

「ねえ、佐藤先輩まで何言っているんですか?」

「唯ちゃんは可愛いからどんな感じだったのか気になるなぁ。あと、私の事はみさきって名前で呼んでいいよ」

 やったぁ、これで本人にも名前で呼ぶことが出来るよ。

「もう、からかうのはやめてくださいよ。でも、みさき先輩って呼べるの嬉しいかも。私もみさき先輩とお兄ちゃんと同じ高校に入れるように頑張りますね。そうしたら本当の後輩になれるし」

「唯ちゃんは本当に可愛いね。私はお姉ちゃんしか姉妹がいないから妹が出来たみたいで嬉しい」

「私もお兄ちゃんしか兄妹がいないからお姉ちゃんってわけにはいかないけど、みさき先輩とお話しできて嬉しいです」

「これからもっと仲良くなれたらいいな」

「私も仲良くなりたいんで、お兄ちゃんがいない時にも遊びに来てくださいね」


 お姉ちゃんが欲しかったのは本当だけど、お兄ちゃんを取り合うのはあんまり嬉しくないな。でも、これからはお母さんだけじゃなくてみさき先輩ともお兄ちゃんの良いところを共有できるじゃない。待って、今まで私が知らなかった高校でのお兄ちゃんの事もわかっちゃうかも。お兄ちゃんに彼女が出来たのはちょっと嬉しくないけど、私が見れないお兄ちゃんの事を教えてもらえるのは嬉しいかもしれない。

 どうせ、お兄ちゃんはみさき先輩と長く続かないだろうしね。

 そう思ってキッチンに向かっちゃったけど、不自然に思われなかったかな?

 でも、美味しい紅茶を淹れたらそんな事忘れちゃうよね。


 紅茶を淹れる時はこだわりとかは無いんだけど、ネットで見た美味しい淹れ方ってのを参考にしているのよ。ティーパックに入っている紅茶の方がお手軽に淹れられていいんだけど、やっぱりこだわった方が美味しい気がするのよね。

 それに、石川君が作ってくれたクッキーもあるし少しでもみさき先輩に食べてもらわないと私が食べる割合が減らないからなぁ。

 よし、お湯も沸いたしちゃっちゃとやっちゃいますか。せっかくだから、新しい紅茶を試してみようかな。お母さんも新しいのはお客さんが来た時用って言っていたから大丈夫だよね。

 うん、良い香りに仕上がったしみさき先輩にも飲んでもらおうっと。


「先輩って紅茶飲めますか?」

「うん、あんまり普段は飲まないけど好きだよ」

「良かったぁ。お兄ちゃんは紅茶飲まないから普段は淹れないんですけど、今日は先輩がいるから新しい茶葉を開けてみました」


 みさき先輩に紅茶を淹れるのは少し緊張したけど上手に出来たと思う。ちょっと緊張しちゃったけど、それは憧れのみさき先輩だから仕方ないと思おう。

 私のお皿には少なめにクッキーを入れて、みさき先輩には大目にクッキーを入れておこう。お兄ちゃんはどっち皿からもクッキーを食べると思うし、上手く言ったらほとんど食べなくて済むかも。


「このクッキーと紅茶の相性良いね。どこで売ってるのかな?」

「このクッキーはですね。売ってないんです。非売品です」

「非売品なら私はもう食べられないのかな?」


 みさき先輩がそんなに気に入ったのなら全部あげればよかったかも。私は正直手作りの物って苦手なんだけど、石川君の事を知っているから捨てるのも申し訳ないし、お兄ちゃんもあんまり食べてくれないから助かるな。


「このクッキーは友達から貰ったんです。気に入ったなら次は先輩の分も焼いてもらいましょうか?」

「そうだったんだ。でも、私の知らない人に私の分まで焼いてもらうのは申し訳ないよ」


 そんな事で拒否されると私の方が困ってしまうかも。いつか偶然を装って石川君とみさき先輩を引き合わせてみたら解決するかも。


「ああ、それは大丈夫だと思いますよ。石川君はお菓子作るのが好きみたいですから」

「石川君?」

「はい、同級生なんですけど、女子力の高い男子です。私より料理が上手なんで時々こうしてお菓子とかもらっているんですよ」

「唯ちゃんはその石川君と仲いいのかな?」

「男子の中では仲良しの方だと思いますよ」

「その人の事好きだったりして」

「それは無いです。私も先輩と同じでお兄ちゃんが大好きなんですよ」


 私の好きとみさき先輩の好きは多分違う感情だと思うけれど、同じお兄ちゃんを好きな仲間として見たら、そんなに大きくは違わないのかもね。

 お兄ちゃんを近くでいつも見ているのは私だってわかっているのかな?


「本当に仲良しな兄妹なんだね。私もその中に入っていいのかな?」

「そうですね。他の人だったら気分良くないですけど、みさき先輩は私の憧れの人だし、お兄ちゃんも普通に接しているようだから大丈夫だと思いますよ」


 そう言えば、中学生の時にお兄ちゃんが誰かを家に連れてきたことってあったかな?

 あったかもしれないけれど、私が家にいる時は誰も連れてこなかった気がするよ。そう考えるとみさき先輩と付き合ったその日に家に連れ込むなんてお兄ちゃんが変わっちゃったのかも。


「まー君と唯ちゃんって仲良し兄妹で羨ましいな。私はお姉ちゃんとそこまで仲良くないからさ」

「先輩が妹だからそう感じるんですかね?」

「それはどうだろう?」

「私も妹ですけど、お兄ちゃんは良くてもお姉ちゃんだと恋愛対象として見れないですもんね」


 みさき先輩も妹なんだ。でも、お兄ちゃんじゃなくてお姉ちゃんってことは同性ってことだし、そんなに深い付き合いは想像しないもんなのかな?

 でも、みさき先輩のお姉ちゃんってどんな人なのか気になるな。


「恋愛対象ってどういうことなのかな?」

「先輩とお兄ちゃんみたいな関係ってことですかね?」

 みさき先輩が私のライバルになるのは悲しいけど、一緒に情報を共有する仲間になれたらいいんだけど。

「それは兄妹じゃ無理なんじゃないかな?」

「そうかもしれないですけど、お兄ちゃん次第じゃないですか」

「じゃあ、まー君が戻ってきたら聞いてみる?」

「それだけはやめてくださいよ。私はお兄ちゃんの事は好きだけど、今の仲の良い関係を壊すリスクは負えません。それに、お兄ちゃんに初めて出来た彼女がみさき先輩で良かったなって本当に思ってますから」


 私がお兄ちゃんの事を好きだってお兄ちゃんは知っていると思うけれど、それをはっきり知ってしまったらお兄ちゃんは私の事をどう思ってしまうのかな?

 きっと今頃はお兄ちゃんが私の部屋を荒らしまわっているんだろうな。いつもは下着の入っている引き出しは空けないお兄ちゃんだけど、たまたま配置を変えた後だからどうなってるのかな?

 引き出しを開けたらわかるように細工をしてあって良かった。あとで確認してもお兄ちゃんには何も言わないけれど、私の中ではお兄ちゃんが見た事には変わりないからね。


「ありがとう。私もまー君だけじゃなく唯ちゃんとももっと仲良くなれたら嬉しいなって思うよ」


 みさき先輩の気持ちは本当に嬉しいな。私もみさき先輩とお兄ちゃんの事をもっと共有出来たら嬉しいですよ。

 なんてことは、言えないよね。

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