第7話 勉強会 前田正樹の場合
勉強をするにも得意な教科と苦手な教科は聞いておいた方がいいかもしれないな。中間テストの範囲はそんなに広くはないんだけど、高校生になって最初のテストだし油断しないで出来る事はやりつくした方がいいだろう。
「えっと、みさきはどの教科が得意でどの教科が苦手なのかな?」
「私はどちらかと言えば数学が得意かも、暗記系はちょっと苦手かもしれないけどね」
「それなら俺と逆だからお互いに教え合う事にしようよ」
高校生になって一か月くらい経っているとはいっても、みさきとは別のクラスだしさっきまでみさきの事は何も知らなかったので、こういう機会を利用してお互いを知っていければいいんじゃないかな。
テストが終わったらどこか行きたい場所を聞いてそこに行ってみるのもいいかもしれないな。あんまりお金も無いから手軽なところがいいけれど、どんな場所がいいのか聞いてもいいのか?
と、余計な事を考えてしまったので勉強に集中しなくちゃな。でも、ずっと勉強するのも疲れちゃうし、息抜きに何か面白いものでも見せて反応を楽しもうかな。その為にも唯の卒業アルバムと文集は痛々しくて笑えると思うからちょうどいいかも。
「勉強だけだと集中できないかもしれないんで、時々休憩を入れておこうね」
「休憩って何するのかな?」
「ゲームとかだとそっちに集中しそうだし、手ごろなところで唯の卒アルでも見とこうか」
「ちょっと、お兄ちゃん。私の卒アルじゃなくて自分のを見せなよ」
唯も怒っている感じを出してはいるけれど、本当はあの写真と痛々しい文章を読んでもらえるのを期待しているんじゃないかな?
とてもじゃないけれど、あの写真を見てしまったら平常心ではいられなくなってしまうと思うな。俺は普段の唯も変な唯も見慣れているのでそうでもないけれど、あの写真は初対面のみさきには厳しいかもしれない。これから唯に接する時の気持ちをどう整理すればいいのだろうって話になりそうだ。
「私は唯ちゃんの卒アル見たいかも」
「ねえ、佐藤先輩まで何言っているんですか?」
「唯ちゃんは可愛いからどんな感じだったのか気になるなぁ。あと、私の事はみさきって名前で呼んでいいよ」
「もう、からかうのはやめてくださいよ。でも、みさき先輩って呼べるの嬉しいかも。私もみさき先輩とお兄ちゃんと同じ高校に入れるように頑張りますね。そうしたら本当の後輩になれるし」
唯は前々から俺の入った高校に行くとは言っていたけれど、正直に今の成績では無理だと思うんだよな。勉強するなら付き合うんだけれど、本人にはそのつもりが無いからどうしようもないしな。
「唯ちゃんは本当に可愛いね。私はお姉ちゃんしか姉妹がいないから妹が出来たみたいで嬉しい」
「私もお兄ちゃんしか兄妹がいないからお姉ちゃんってわけにはいかないけど、みさき先輩とお話しできて嬉しいです」
「これからもっと仲良くなれたらいいな」
「私も仲良くなりたいんで、お兄ちゃんがいない時にも遊びに来てくださいね」
みさきが家に遊びに来るのは構わないんだけれど、いつ来ても大丈夫なように部屋の鍵はしっかりと確認しておこう。部屋の中を見られることよりも、俺の部屋に誰かが入った時のストレスがヤバそうだし。でも、俺は唯の部屋に勝手に入ってしまうんだけどね。
そんなことを考えていると、唯が席を立って台所の方へ向かっていったようだ。
きっと、紅茶でも入れるんだろうな。俺には紅茶の良さが理解できないんであんまり嬉しくないけど、この隙を利用して唯の部屋から卒アルと文集を持ってくることにしよう。
「まー君の部屋で勉強するのかな?」
「違うよ。勉強はここでするよ」
「ここってリビングだよね?」
「うん。リビングだけど」
「ここで勉強してたら他の人の邪魔にならないかな?」
「それは大丈夫だと思うよ」
確かに、ここで勉強していると母さんが帰って来た時に色々と余計な事を言われるリスクがあるけれど、部屋に入れるよりはそっちの方が平気だろう。
みさきは悪い人ではないと思うけれど、良い悪いの問題ではなく、俺が単純に部屋に人を入れたくないだけの話なのだ。多分、唯も中学生に入ってから俺の部屋に来たことは無いだろう。
今日はホームルームだけだったから勉強道具は持ってきていないだろうし、俺の教科書で勉強した方がいいかな。
「勉強道具って持ってきてないよね?」
「うん、今日は授業無いから持っていないよ」
「じゃあ、教科書をとってくるから少し待っていてね」
このまま自分の部屋に直行して勉強道具を取りに行くのが普通なんだろうけど、唯が紅茶を淹れる時は時間をかけて丁寧にやっているみたいなので、今のうちに唯の部屋から卒アルと文集を確保しておこう。
俺は週に数回侵入しているけれど、物を一切動かしていないので気付いてはいないだろう。別に唯の部屋で何かをするわけではないんだけど、小さい時からのくせで何となく部屋に入ってしまっていた。
卒アルのある場所は知っているんだけれど、何となくタンスの引き出しを順番に開けてみたくなる衝動に駆られてしまい、気付いた時には引き出しを開けて閉める運動を繰り返してしまっていた。
この運動から得た教訓は『妹は子供だと思っていてもいつかは大人になる』というものだった。
目的の卒アルは見つけられたけど、文集はいつもの場所には無かったので諦めることにしよう。今はそんなに長時間居座る事も出来ないし、早く戻ってあげないとみさきがかわいそうだ。
俺はそのまま卒アル以外をもとの状態に戻しておいて、自分の部屋から教科書とノートを持ってリビングに戻る事にした。
もちろん、窓と扉の鍵が施錠されている事はしっかりと確認しておいた。扉がダブルロックだからと言って油断するのは良くない事だからだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます