第6話 勉強会 佐藤みさきの場合

 勉強をするって言っても、どの教科をやるのか決めていないよね。まー君は意外と積極的な人なのかもしれないと思いつつあるけれど、勉強もそんな感じでしていくのかな?


「えっと、みさきはどの教科が得意でどの教科が苦手なのかな?」

「私はどちらかと言えば数学が得意かも、暗記系はちょっと苦手かもしれないけどね」

「それなら俺と逆だからお互いに教え合う事にしようよ」


 自分の苦手な科目を恋人が教え合うのってなんかいいかも。今までは一人で勉強することが多かったし、苦手って言っても友達よりは出来ていたんだよね。まー君がどれくらい出来るのかわからないけれど、私が役に立てたらいいな。


「勉強だけだと集中できないかもしれないんで、時々休憩を入れておこうね」

「休憩って何するのかな?」

「ゲームとかだとそっちに集中しそうだし、手ごろなところで唯の卒アルでも見とこうか」

「ちょっと、お兄ちゃん。私の卒アルじゃなくて自分のを見せなよ」


 まー君の卒アルは興味あるけど、まー君と同じ中学の友達に見せてもらえばいいかも。それよりも、唯ちゃんの卒アルってちょっと興味あるかも。今は中学生だから、小学生ってことは今よりも幼い感じなのかな?


「私は唯ちゃんの卒アル見たいかも」

「ねえ、佐藤先輩まで何言っているんですか?」

「唯ちゃんは可愛いからどんな感じだったのか気になるなぁ。あと、私の事はみさきって名前で呼んでいいよ」

「もう、からかうのはやめてくださいよ。でも、みさき先輩って呼べるの嬉しいかも。私もみさき先輩とお兄ちゃんと同じ高校に入れるように頑張りますね。そうしたら本当の後輩になれるし」

「唯ちゃんは本当に可愛いね。私はお姉ちゃんしか姉妹がいないから妹が出来たみたいで嬉しい」

「私もお兄ちゃんしか兄妹がいないからお姉ちゃんってわけにはいかないけど、みさき先輩とお話しできて嬉しいです」

「これからもっと仲良くなれたらいいな」

「私も仲良くなりたいんで、お兄ちゃんがいない時にも遊びに来てくださいね」


 可愛い唯ちゃんは私のために新しいお茶を淹れてくれるみたい。キッチンの方に走っていく姿もウキウキが伝わってきて可愛いな。そろそろ勉強する為に部屋に行くのかな?


「まー君の部屋で勉強するのかな?」

「違うよ。勉強はここでするよ」

「ここってリビングだよね?」

「うん。リビングだけど」

「ここで勉強してたら他の人の邪魔にならないかな?」

「それは大丈夫だと思うよ」


 てっきり、まー君の部屋で勉強をするもんだと思っていたから驚いたけれど、付き合ったその日のうちに部屋で二人っきりってのも早すぎるよね。他の男子と違ってその辺は紳士的なのかも。付き合って一日目だけど、トートバッグをさりげなく持ってくれたり色々と気を使ってくれたりで優しさは伝わってくるよ。


「勉強道具って持ってきてないよね?」

「うん、今日は授業無いから持っていないよ」

「じゃあ、教科書をとってくるから少し待っていてね」


 そう言ってまー君がリビングを出ていたのだけれど、私もついて行った方がいいのかな?

 唯ちゃんも戻ってこないし、初めてきた家のリビングで一人ってのも気まずい感じだよね。そう思っていたら唯ちゃんが戻って来たよ。もう少しリビングを見て回りたかったけど、あんまり物色するのもお行儀良くないし、唯ちゃんとお話をしてまー君が来るのを待っていようかな。


「先輩って紅茶飲めますか?」

「うん、あんまり普段は飲まないけど好きだよ」

「良かったぁ。お兄ちゃんは紅茶飲まないから普段は淹れないんですけど、今日は先輩がいるから新しい茶葉を開けてみました」


 唯ちゃんは嬉しそうに紅茶を淹れると、私の前にクッキーと一緒に紅茶を出してくれた。ちょっと見た目は不揃いなクッキーだったけれど、一つ頂くと甘すぎず控え目な感じで紅茶によく合う。


「このクッキーと紅茶の相性良いね。どこで売ってるのかな?」

「このクッキーはですね。売ってないんです。非売品です」

「非売品なら私はもう食べられないのかな?」


 そう言ってみたけど、きっとこれは唯ちゃんが作ったんだろうな。


「このクッキーは友達から貰ったんです。気に入ったなら次は先輩の分も焼いてもらいましょうか?」

「そうだったんだ。でも、私の知らない人に私の分まで焼いてもらうのは申し訳ないよ」


 てっきり唯ちゃんの手作りなのかと思っていたけど、お友達が作ってくれたやつだったんだ。でも、お友達が作ったクッキーを私が食べていいのかな?

 そう思っていたけれど、クッキーと紅茶の相性が良くて手が止まらなくなりそう。


「ああ、それは大丈夫だと思いますよ。石川君はお菓子作るのが好きみたいですから」

「石川君?」

「はい、同級生なんですけど、女子力の高い男子です。私より料理が上手なんで時々こうしてお菓子とかもらっているんですよ」

「唯ちゃんはその石川君と仲いいのかな?」

「男子の中では仲良しの方だと思いますよ」

「その人の事好きだったりして」

「それは無いです。私も先輩と同じでお兄ちゃんが大好きなんですよ」


 これは兄妹愛なのかな?

 それにしてはちょっと声のトーンが低いような気がしているけど、あんまり深く考えない方がいいのかもね。


「本当に仲良しな兄妹なんだね。私もその中に入っていいのかな?」

「そうですね。他の人だったら気分良くないですけど、みさき先輩は私の憧れの人だし、お兄ちゃんも普通に接しているようだから大丈夫だと思いますよ」


 ちょっと言葉に棘があるような気がしているけれど、ちゃんとお付き合いしているんだし、あんまり遠慮しない方がいいのかな。でも、あんまり唯ちゃんの気分を害さない方がいいかも。


「まー君と唯ちゃんって仲良し兄妹で羨ましいな。私はお姉ちゃんとそこまで仲良くないからさ」

「先輩が妹だからそう感じるんですかね?」

「それはどうだろう?」

「私も妹ですけど、お兄ちゃんは良くてもお姉ちゃんだと恋愛対象として見れないですもんね」


 この子はまー君の事を恋愛対象として見ているってことなのかな?

 ちょっとそれはおかしいと思うけれど、これくらいの年代だったらそう言う事もあり得るのだろうか?

 私の知る限りの人達でも恋愛対象として兄弟を見ている人はいなかった気がするな。


「恋愛対象ってどういうことなのかな?」

「先輩とお兄ちゃんみたいな関係ってことですかね?」

「それは兄妹じゃ無理なんじゃないかな?」

「そうかもしれないですけど、お兄ちゃん次第じゃないですか」

「じゃあ、まー君が戻ってきたら聞いてみる?」

「それだけはやめてくださいよ。私はお兄ちゃんの事は好きだけど、今の仲の良い関係を壊すリスクは負えません。それに、お兄ちゃんに初めて出来た彼女がみさき先輩で良かったなって本当に思ってますから」


 ちょっと私の考えすぎだったのかもしれないけれど、唯ちゃんがそう言うならまー君には確認しないでおこう。今の良好な関係を壊してまで次のステップに行くのは勇気もいるだろうし、家族だったら離れることも出来ないからなおさらだよね。


「ありがとう。私もまー君だけじゃなく唯ちゃんとももっと仲良くなれたら嬉しいなって思うよ」

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