第2話 告白 佐藤みさきの場合

 今年のゴールデンウイークは家族で旅行に行ったのだけれど、旅行の間もこのことで頭がいっぱいだった。お姉ちゃんは私がいつもと様子が違う事に気付いていたみたいだけれど、パパとママはいつも通り優しい感じでいた。誰よりも早く投稿してあの人の机にラブレターを入れておかなくちゃ。誰かに見られたら恥ずかしいし、下駄箱に入れてあの人の友達とかに見られて冷やかされたら困っちゃいそうだよね。


 いつもより三十分早く学校についたのだけれど、校門のところに立っていた生活指導の先生に挨拶したら褒められてしまった。早く教室に行かなきゃいけないのに先生の話が長くなってしまったので、部活をやっていない生徒も登校しだしたので少し焦っちゃった。あの人のクラスは比較的ゆっくり登校する人が多かったので誰にも見られなかったけれど、私のクラスの人にあの人の教室から出るところを見られちゃった。


「みさきどうした? 休みボケでクラス間違えるなんてウケる。さあ、教室はこっちだよ」

「ありがとう。ちょっと休みボケしちゃったかも」


 手紙を入れるところは見られてないと思うけれど、あの先生がいなかったらこんなにドキドキすることが無かったかも。告白が失敗したらあの先生のせいにしてしまおう。


 手紙には今日の放課後に公園で待っててもらうようにお願いしてみたけれど大丈夫だよね?

 恥ずかしくって私の家と逆方向の公園にしちゃったけど、放課後なら邪魔する生徒もいないと思うし、誰かいたとしても恋する乙女の行動は止められないでしょ。私だって誰かが告白してたら応援すると思うもん。

 それにしても、全校集会もあるって言うのに先生の話は長くて退屈だな。これから校長先生の長話も聞かなきゃいけないと思うのに、何かいい事無いとつらいよ。って思って廊下を見ていたら、あの人が通っちゃった。ちょっと、いい事が過ぎるよ。これは告白間違いないって言っているようなもんじゃない。

 なんてテンションが上がっていたけれど、やっぱり好調の話は長くて退屈だな。隣のクラスのあの人を見てたら時間過ぎるのがあっという間になっちゃうかも。って、こっち見たよ。恥ずかしくて目を逸らしちゃったけど変な子って思われてないよね?

 次はちゃんと目を見ようって思ったけれど、あの人はもうこっちを向いていなかった。ちょっとだけ残念だけど、あとでじっくり見てあげよう。


 帰りのホームルームも終わって公園に向かおうと思っていたんだけど、お姉ちゃんから急に呼び出されて三年生の教室に行く事になっちゃった。早く公園に行かないとあの人が帰ってしまうかもしれないのに、お姉ちゃんって本当に我がままだよね。

 三年生の教室はちょっと一年生には入りずらい雰囲気なんだけど、入り口でウロウロしているとお姉ちゃんが手招きしてくれた。知らない顔の先輩もいるんだけど、お姉ちゃんは何だか楽しそうにしているな。


「みさき、ごめんね。ちょっとだけ良いかな?」

「なあに?」

「みさきって彼氏いないよね?」

「今はいないよ」

「今はって、あんた今までもいたこと無いでしょ?」

「そうだけど、何?」


 もう、早く公園に行きたいのに、こんな時に限ってお姉ちゃんって何かしてくるんだよね。男の先輩がいる前で恋愛の話とかしたくないのにな。


「あのさ、こいつがみさきの事気になるって言ってるんだけど、付き合うとかじゃなくて友達とか無理かな?」


 私の知らない先輩を指差してお姉ちゃんが何か言っているんだけど、その意味が分からなかった。


「ねえ、ゴールデンウイークにみさきを見て一目惚れしたんだって。付き合うとかじゃなくていいからどう?」

「待ってよ、そんなこと急に言われても意味わからないよ」

「そんなに深く考えなくていいからさ、こいつは悪い奴じゃないからさ」

「悪いとかじゃなくて話したことも無いのに仲良くとか無理だよ」

「そっか、ごめんね」

「お姉ちゃんの話ってそれだけ?」

「うん。ごめん」

「ちょっと用事あるから行くね」


 ああ、もう。こんなわけがわからない事で時間を無駄にしちゃったよ。お姉ちゃんの事は好きだけど、もう少し私の事も考えてくれたらいいのに。だいたい、一目惚れって何よ。私の外見だけ見て好きになったって事じゃない。そう言うのって中身を見てもらえてないみたいで好きじゃないな。

 余計な事で遅くなってしまったけれど、急いで公園に向かわなくっちゃ。ちょっと走ったから前髪とか乱れてないよね?

 公園の中を見てみたら、あの人がいた。よかったよ。急いで前髪を直していかなくちゃ。って、あの人が空を見上げてるけど何かあるのかな?

 空には雲が少し出ているだけで何もないけど、もしかして何か見える人なのかな?

 このまま空を見ているだけで終わりそうなんで、勇気を出して話しかけてみよう。手紙も読んでくれたみたいだし、話しかけても大丈夫だよね。


「良かった。来てくれてありがとうございます」


 うん、自然に話しかけることが出来たよ。私も空を見たから前髪が乱れてないか確認するの忘れたけど、大丈夫だよね?


「君が手紙をくれた子?」

「はい、読んでくれて嬉しかったです」

「これってラブレターで良いのかな?」

「はい、入学してちょっと経って見かけた時に一目惚れしました」

「それは嬉しいんだけど、一つ聞いてもいいかな?」

「なんですか?」

「なんでこの手紙に差出人の名前を書かなかったの?」


 ああ、手紙を書くことに夢中で自分の名前を書くのを忘れちゃった。それに、前髪が少し乱れているような気がするし、ちょっと恥ずかしくなってきちゃった。顔を隠すついでに前髪も直しちゃおう。


「ごめんなさい、前田君の名前を丁寧に書くことと手紙の内容に気を取られて名前を書くの忘れてました」

「忘れてたんならいいんだけど、ちゃんと書いてくれないとイタズラだと思っちゃうよ」

「そんな、私は前田君にイタズラとかしないです」

「いや、君の事は全く知らないしどうしたらいいんだろ?」

「じゃあ、私の事をもっと知って貰うために、私と付き合ってください」


 手紙にも書いたけれど、ちゃんと気持ちを伝えることが出来たよ。でも、返事がすぐに来ないってことは悩んでるってことなのかな?

 断られたら私どうしたらいいんだろう?


「いいよ、お互いにどんな人間かわからないけれど付き合ってみよう」

「本当に? 嬉しい!」


 よかった。まー君は私の見た目に惚れた他の人達とは違うんだろうな。今までも何人かに告白されてきたけど、自分から告白するのって勇気がいるもんなんだね。その分成功したら嬉しいんだ。


「ところで、君の名前はなんていうのかな?」

「私ですか? 私はみさきって言います。佐藤みさきです」

「そうなんだ、これからよろしくね。佐藤さん」

「え? みさきでいいよ」

「じゃあ、みさきさん」

「もう、他人行儀だな。呼び捨てでいいんだよ、まー君」


 本当にまー君は良い人だな。これからずっと楽しく過ごしていかなきゃね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る