第3話 家 前田正樹の場合

 そう言えば、もう少しで中間テストがあるのだけれど、みさきは勉強の方はどうなんだろう?

 俺はそこまで成績は悪くないんだけどクラスが違ったとしても同じ高校だし、そんなに頭が悪いってことは無いだろう。マンガとかでは一緒に勉強したりしていたし、この場合も誘ってみた方がいいのかな?


「これから家に来る?」

「え? 今から?」

「うん、何か予定あったりするのかな?」

「今日は部活も無いし、家に帰ってからはテストに向けて勉強しようかなって思っていたよ」

「それならちょうどいいかも。俺の家においでよ」

「???」

「今日は妹もいるからさ」

「???」

「みさきは徒歩通学なのかな?」

「え? う、うん。徒歩通学だよ」

「俺も今日は徒歩なんで一緒に歩いて行こうか」


 ここから家までは少し離れているけどそんなに時間はかからないだろう。みさきの歩くスピードがわからないので何とも言えないが、ゆっくり歩いたとしても二十分もかかりはしないと思う。みさきは何だか緊張しているみたいなので、その緊張を解くためにも手を握った方がよさそうだな。

 僕がそっと手を伸ばしてみさきの手を握ろうと思ったのだけれど、僕側の手にはカバンとは別にトートバッグを持っていたため手を握ることは出来なかった。みさきは僕がトートバッグを持ってあげるのだと勘違いしたらしく、「ありがとう」とだけ言うとトートバッグを僕に渡してきた。

 トートバッグを受け取った時に少しだけ中が見えたのだけれど、少女漫画の雑誌が二冊入っていたようだ。少年漫画に比べて厚さがあるからなのか、思っていたよりもずっしりとした重量感があってこれを持って移動するのは大変そうだなと思った。

 受け取ったトートバッグを反対の手に持ち替えて再び手を握ろうと思って伸ばしたのだけれど、みさきは両手でリュックの肩紐を持つ癖があるらしく、俺がみさきの手を握る事は出来ないまま家に着いてしまった。


「ここが俺の家だよ」

「本当に来ちゃったけど良いのかな?」

「遠慮しないで入っていいよ」


 俺はドアを開けるとみさきを中に招き入れて、そのまま玄関横にあるリビングへと案内した。中には妹の唯がいるだけで、母さんの姿は見えなかった。


「お兄ちゃんお帰りなさい。学校は忙しかった?」

「今日は始業式だけだったからそうでもないかな」

「唯もそうだったから一緒だね。……って、後ろに女の人がいるよ?」

「うん、一緒に勉強しようと思って連れてきた」

「え? 勉強?」

 みさきは少し不思議そうに僕の方を向いて首をかしげていた。

「お母さん、お兄ちゃんが女の人を連れてきてるよぉ」

 唯はそう言いながら台所の方へと飛んでいった。

「ねえ、まー君。勉強って何?」

「え? テスト勉強を一緒にするんじゃないの?」

「そんな話は聞いてないよ」

「ごめん、言ってなかったっけ?」

「うん、聞いてません。勉強するのは構わないけどね」


 そう言えば勉強することは言ってなかったような気がするな。それにしても、唯は慌ててどこに行ったんだろう?

 立っているのも何なので、みさきには俺の隣に座るように促すとそこにちょこんと座っていた。ちょっと緊張しているようで可愛らしいな。

 そこに唯が戻ってきたのだけれど、先ほどよりも慌てているように感じるくらい落ち着きがなかった。みさきを見て何か興奮しているらしい。


「あの、もしかして佐藤みさき先輩ですか?」

「そうだけど、どこかで会った事あったっけ?」

「いえ、直接面識はないんですけど、去年あった定期演奏会に行った時に先輩の事知りました。あの時のフルートのソロを聞いてファンになったんです。あ、私の友達のむっちゃん、山本睦美が招待してくれたんです。それで、先輩の事を睦美から色々聞いちゃいました」

「ありがとう、そう思ってくれるだけでも嬉しいよ。あなたは吹奏楽やってないのかな?」

「私はそう言う繊細な事が苦手でして、正直言うとあんまり興味なかったんですけど、先輩の演奏を聞いたら吹奏楽に興味出ました」

「そうなんだ、良かったら今度フルートを教えようか?」

「本当ですか? 嬉しいな。でも、なんでお兄ちゃんと一緒にいるんですか?」

「私がまー君に告白して付き合う事になったからだよ」

「え? え? お兄ちゃんと先輩が付き合ってるんですか?」

「うん、お付き合いすることになりました」

「いつからですか?」

「今日からだよ」

「お母さん、お兄ちゃんが佐藤先輩と付き合ってその日に家に連れてきたよぉ」


 唯は再び僕達の前からいなくなってしまったけれど、勉強の邪魔になるからちょうどいいや。母さんの姿が先ほどから見えないのが気になるけれど、あんまり深く考えないことにしよう。

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