ヤンデレ彼女×サイコパス彼氏≒純愛

釧路太郎

第一部 日常生活編

第1話 告白 前田正樹の場合

 ゴールデンウイークが終わって最初の登校日、俺は教室のいつもの席に座って教科書をカバンから取り出すと、机の中に一通の手紙が入っていることに気が付いた。誰にも気づかれないようにそれをポケットにしまい込むと、誰かのイタズラではないかと教室内をキョロキョロと見てしまった。


 かなり不自然な動きではあったと思うけれど、ソレに何かを言ってくるような人もいなかったので、落ち着いてトイレにでも行ってみようかと思った。だが、こんな時に限って邪魔をしてくるやつがいるので安心することが出来ない。前の席の田中が僕に話しかけてきた。


「なあ、前田って休みの間どっか行った?」

「俺は親戚のとこに行っただけだけど」

「そうなんだ、俺はハワイに行って来たぜ」


 休みの事を聞いてくるやつはたいてい自慢したいからなんだと思うんだけど、田中もその中の一人でしかなった。他の奴と田中が違うとしたら、なぜか俺にだけ土産をくれるいいやつって事だけだ。よくわかないキーホルダーを貰ってカバンにつけたのだけれど、カバンにつけている様子を見た田中は嬉しそうにニコニコしていた。本当に単純なやつだ。


「さあ、皆席に着け、ホームルームを始めるぞ」


 田中に邪魔されたせいで手紙の中身を確認できなかったのだけれど、今回は土産をくれた事に免じて許してやろう。担任の話はいつも簡潔に終わってしまうのでありがたいのだけれど、簡潔過ぎて話の意図を読み切れないことが時々あった。今日の話はゴールデンウイークの事と期末テストの事だけで話が終わっていた。もう少し何かあるだろうと思っていたけれど、話が早い事に問題などないだろう。さて、担任も職員室に戻った事だし、トイレにでも行って手紙の内容を確認してみよう。誰かのイタズラだったら明日一日休んでしまうかもしれないけれど、割と可愛い封筒なので少し期待してしまう。


「あれ? どっか行くの?」

「便所だよ」

「そっか、全校集会に遅れるなよ」

「そんな長くねえよ」


 田中は俺の行動を気にかけてくるのだけれど、必要以上に関わろうとしないのが良いところでもある。小学校の時になんでも俺のマネをするやつがいたのだけれど、そいつに比べたらだいぶ付き合いやすい人間だと思う。さっさとトイレに行って手紙を確認してみることにしよう。

 他のクラスはまだホームルームをやっているらしく、廊下に出歩いている人もいなかったので、トイレにも誰もいなくて助かった。何となく奥の個室に入るとポケットからそっと手紙を取りだしてじっくりと確認してみた。宛名は俺の名前なので間違いないのだけれど、差出人の名前は封筒には書いていなかった。

 裏面についている可愛いキャラクターのシールをゆっくり剥がして封を開けると、中から出てきた手紙も可愛らしいキャラクターが描かれていた。中身を手に取って確認すると、イタズラでなければラブレターと言って問題ないだろう。


「それにしても、差出人の名前くらい書いておけよ。俺にこんな手紙くれるのは誰なんだ?」


 思わず口に出してしまったけれど、実際どこにも差出人の名前が書いていないのが気になってしまった。俺より先に教室にいたのが田中だけなのでクラスの女子ってことは無いだろうけれど、田中が誰かに書かせたとしたら俺は田中を許しはしないだろう。

 手紙をしまってポケットに入れたのだけれど、このままポケットに入れたまま全校集会に出るのは問題がありそうだ。きっと持ち物検査もあるだろうし、教室に戻ったらさっき配られたプリントに挟んでカバンにしまっておこう。


 全校集会での校長の話は担任とは比べ物にならないくらい長く、ちょっと退屈してきたときに周りを見ていると隣のクラスの女子と目が合った。すぐに相手が目を逸らしたのでちょっと気まずかったけれど、なかなか可愛らしい子と目が合って嬉しかった。


「なあ、今日はこのまま真っすぐ帰るのか?」

「いや、ちょっと図書室寄ってから帰る」

「前田って本好きだっけ?」

「俺じゃなくて妹が探している本があるんだよ」

「そっか、前田っていい奴だな」


 俺の妹が本を探しているってのは嘘なんだけど、田中に一緒に居られたら手紙の差出人に会いに行きづらい。ちょっとだけ罪悪感を感じそうになったけれど、田中はそう言うのを気にしなそうなタイプなので気にしないでおこう。


 カバンを持って帰り支度をしていたのだけれど、手紙に書いてある待ち合わせ場所がいまいちわかりにくくて困ってしまった。図書室に行けばこの辺りの地図もあるだろうと思っていたのだけれど、俺が探しているようなものはなかった。図書委員の人に尋ねてみると、この辺りの地図が印刷された紙をくれたのでサービスが良いなと思った。


 地図を片手に目的地を探していると、俺の通学路とは逆方向にある公園だったらしく、指定されたベンチに腰を下ろして空を見ていた。快晴ではないけれどいい天気には違いなく、程よくかかっている雲もいい感じに日陰を作っていて過ごしやすい。


「良かった。来てくれてありがとうございます」


 声のする方向を向くと、全校集会で目が合った女子がそこに立っていた。一瞬しか目が合わなかったんだけれど、こうしてみても可愛らしい女の子だと思う。


「君が手紙をくれた子?」

「はい、読んでくれて嬉しかったです」

「これってラブレターで良いのかな?」

「はい、入学してちょっと経って見かけた時に一目惚れしました」

「それは嬉しいんだけど、一つ聞いてもいいかな?」

「なんですか?」

「なんでこの手紙に差出人の名前を書かなかったの?」


 俺が尋ねると顔を真っ赤にしたと思ったら、そのまま両手で顔を隠してしまった。こんな反応をする人を近くで見たことが無かったから少し嬉しくなった。


「ごめんなさい、前田君の名前を丁寧に書くことと手紙の内容に気を取られて名前を書くの忘れてました」

「忘れてたんならいいんだけど、ちゃんと書いてくれないとイタズラだと思っちゃうよ」

「そんな、私は前田君にイタズラとかしないです」

「いや、君の事は全く知らないしどうしたらいいんだろ?」

「じゃあ、私の事をもっと知って貰うために、私と付き合ってください」


 この子は可愛いけどちょっと面倒そうな感じなのかもしれない。と、思って見たものの、俺の事を好きでいてくれることが嬉しくて少しにやけそうになってしまった。よし、この子と付き合ってみようかな。もし合わなかったら別れればいいだけだしな。


「いいよ、お互いにどんな人間かわからないけれど付き合ってみよう」

「本当に? 嬉しい!」


 そう言ってこの子はまた顔を両手で覆っていた。


「ところで、君の名前はなんていうのかな?」

「私ですか? 私はみさきって言います。佐藤みさきです」

「そうなんだ、これからよろしくね。佐藤さん」

「え? みさきでいいよ」

「じゃあ、みさきさん」

「もう、他人行儀だな。呼び捨てでいいんだよ、まー君」


 俺に勝手にあだ名をつけて勝手に呼んでいるんだけど、これくらいなら気にしないでおいた方がいいのかな?よくわからないけれどこれから楽しくなるといいな。

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