第16話 遠いむかしの逃亡者

『──よーし、待ってろウェイン! 俺が人魚をとっ捕まえて大金にしてやるぜ!』



 気が遠くなるほど昔の話。育ててくれた養父のために、ジゼは家を飛び出し、人魚を捕まえようと裏手に広がる森の奥に入っていった。


 華奢な体躯に不釣り合いな魔水鏡ホロウメロウを背負い、一つに結った左側の長い髪を結び直しつつ、『つかれたぁ』と時折弱音を吐きながら、湖を目指して歩いていく。


 その途中で、彼は小さな人影を見た。

 無造作に跳ねた短い黒髪が印象的な、一人の少年だった。



『……? おまえ、こんなところで何してるんだ?』



 ジゼは足を止め、少年に語りかける。痩せこけて十分に栄養も取れていなさそうな少年はゆっくりと振り返ったが、その顔を見た途端にジゼはびくりと肩を揺らした。


 顔面の半分が焼けただれているのか、痛々しいケロイドによって、まだ幼さの残る顔が酷く歪んでしまっていたのだ。



『……っ』



 ジゼは狼狽えたが、ケロイドの少年はにこりと破顔する。



『君こそ誰? 僕はトーガ。ここに家出しに来たんだ』


『い、家出……?』


『うん。新しく出来たパパにバケモノだって言われて、暴力振るわれたから逃げてきたんだ。嫌になっちゃうよね』



 焼け爛れて潰れた目とは反対側の目元を緩め、トーガと名乗った少年は木の幹に腰掛けている。


 バケモノ──自分も投げられたことのある言葉に胸を痛め、ジゼはその場に腰を下ろした。



『あれ、どうしたの。こんなバケモノみたいな顔の人間なんて、怖いでしょ。僕なんか放っておいてもいいよ。ママが迎えに来るまで動く気ないから』


『……びっくりはしたけど、別に怖くないし、放っておけねーよ』


『へえ! 物好きだね。村のみんなは僕を怖がるのに』


『……俺も、言われたことあるんだ。バケモノって』



 視線を下げながらこぼせば、トーガは首を傾げ、まじまじとジゼを見つめる。



『ふぅん、君が? 見た目は綺麗だし、普通の人間なのにねえ。どうしてバケモノなの?』


『分からない……村の大人達は、昔から俺を見るとそう言う』


『昔って、いつ?』


『覚えてない。一番最近言われたのは、雪月食せつげっしょくのお祭りがあった時かな』


『あははっ、変なこと言うんだね、君。雪月食のお祭りなんて、もう何十年も前に廃止になったって長老が言ってたよ? 僕と同じくらいの歳の君が、そんなの見たことあるわけないじゃないか』



 トーガはおかしそうに笑って、『ねえ、暇なら何か面白いことしてよ』と身を乗り出した。ジゼは困惑しながら目を泳がせる。



『ひ、暇なわけじゃないよ。俺、人魚を探しに行かないと……』


『人魚? 何言ってるの、そんなのこの辺の森にはもういないよ。隣の山にはまだ残ってるって聞いたことあるけど』


『え!? そうなのか!? それじゃ困る、歌の時間までに戻れないじゃないか……』


『へえ! 君、歌をうたえるの? なぁんだ、面白そうな特技あるじゃん』



 楽しげに顔を上げ、トーガはくしゃりと無邪気に笑う。『ねえ、歌ってよ』と促され、ジゼはたじろいだ。



『え……だ、だめだよ……ウェイン以外の前では、絶対に歌うなって言われてて……』


『ウェインって誰?』


『俺の……お、お父さん……』


『あはは。ちゃんと言いつけ守るんだ、良い子なんだねえ。大丈夫だよ、歌ったことは誰にも言わずに黙っとくからさ。あっ、そうだ、どうせなら僕と友達にならない? 僕、こんな見た目だから友達なんて出来なくてさ、ちょっと憧れてるんだ』


『え……』



 ともだち。

 自分には一生できないと思っていたそれ。


 けれどトーガからごく自然に『友達になろう』と誘われ、ジゼは瞳を輝かせる。



『……なりたい』



 気が付けば、無意識にそう答えていた。



『よし、じゃあ決まり! 僕と君は、今日から友達ね!』


『う、うん』


『ねえねえ、せっかく友達になったんだし、記念にやっぱり何か歌ってよ。楽しい歌がいいな』



 したり顔でねだるトーガ。ジゼはやはり少し躊躇ためらったが、ここで断るのも心苦しい。


 結局、ジゼは生まれて初めて出来た〝友達〟の頼みを、無下にすることはできなかった。



『……分かった。歌う』



 控えめに頷き、すっと息を吸い込んだ彼。ややあって、ついに、ジゼはウェインの言いつけを破ってしまう。


 喉を震わせ、静かな森の一角に響いた歌声。


 儚げで美しくも、どこか鬱々しく不気味なその旋律は、歌うことをやめた今でもはっきりと喉の奥に焦げ付いている。


 あの日、たった一日だけ、〝友人〟になった無垢な少年。

 そんな彼のことを思い出しながら──


 ジゼは、こめかみに伝う涙の雫と共に、目を覚ました。



「……また、嫌な夢だ……」



 ずっ、と鼻水を啜り上げ、熱い目頭を押さえて起き上がる。もう何度も見た悪夢。いくら時を経ても慣れず、いい加減うんざりしてしまう。



「いい加減、忘れろよ……」



 溜め息混じりに涙の粒を拭った──直後。


 ジゼは、足元の不自然な重みに眉根を寄せた。



「……ん?」



 ひやり、冷たい水が張り付くかのような不快な感触。まさか……と息を呑み、おそるおそる足元を見下ろす。


 するとやはり──毛布の中に頭を突っ込んでいる人魚の尾ひれが、ベッドからひょっこりとはみ出していた。



「うおわあああッ!? お前何してんだァ!!」



 慌てて毛布をめくれば、エメリナは枕代わりにしていたジゼの太ももから眠たげに顔をもたげる。

 しかし寝ぼけ半分でこくりこくりと舟を漕いでおり、夢見心地のその様子に憤慨しつつジゼは彼女を叱咤した。



「おっ前なあ!! 勝手に毛布の中に入ってくんなっつったろ、俺の体温で下手すりゃ死ぬぞ!?」



 しかしそんな彼の怒号にも、エメリナは寝ぼけ顔。

 こくこくと適当に頷いたのちに、彼女はジゼの足元に擦り寄って再び二度寝しようとする。


 いや何も分かってねえだろうがぁぁ!! と鬼神のごとく目尻を吊り上げ、ジゼは強引に鏡を掴み取ってエメリナを魔水鏡ホロウメロウの内部へ戻した。



「ったく、油断も隙もない……」


『むー! ジゼ、いじわる!』


「意地悪じゃねーわボケ!! 俺の寝床に入ってくんなって言ってんだよ!!」


『やだ! エメリナも、ふかふかで寝たい!』



 鏡に強制収容した途端に意識が覚醒したのか、エメリナは泡を詰め込んだ小瓶を床にごんごんと打ち付けて『ふかふか!』『ねむねむ!』『ぷんぷん!』と訴え始めた。一方のジゼは「下の階に迷惑だからやめろ!」と叱り付け、両腕を組んでベッドに腰掛ける。



「ったく……ふかふかって、このベッドのことか? あのな、別に寝たっていいんだよ。ただ、俺がいる時に潜り込んで来んなって言ってんの。一人で寝ろ。ただし水は拭け」


『エメリナ、ジゼと、ふかふかで寝たい……』


「ダメだって! つーか、今日でこの村も出るからな。今夜からはまたしばらく野宿だぞ、つまりふかふかもお預けだ。ハイ残念」


『むー!!』



 鼻で笑いながら告げれば、エメリナは不服げな顔でぶくぶくと鏡面に泡を浮かべる。

 そんな顔したって俺には効かねえぜと余裕の表情で魔水鏡ホロウメロウを手に取ったジゼは、膨れっ面のエメリナを視界から隠すように布を被せた。



「さてと。予定より早いが、起きちまったしもう村から出ちまうか。馬も待ちくたびれてるだろうからな、拗ねた誰かさんがずーっと鏡から出てこなかったせいで」


 ──びゅっ!


「ぶえっ!? て、テメェ!! 水で攻撃してくんなって!!」



 布のガードすら貫通した水鉄砲によって顔を濡らされつつ、ジゼは鏡を背負って部屋を出る。


 想定外のトラブルのせいでこの村には予定より長居してしまったが、さて、ここからどこへ向かおうか──などと考えて受付へ続く階段を降りれば、宿屋の女主人が「あら、旅人さん」と微笑んだ。



「ご無事でよかったです! 昨晩はよく眠れました? お怪我や、困ったことはありませんでしたか? お部屋が二階なので大丈夫だろうとは思ってましたけど、やっぱり心配で」


「……? いえ、僕は特に何も……。何かあったんですか?」



 不自然な言動に訝しみつつ尋ねれば、「ええ、実はですね……」と女将は声を抑える。



「昨晩、村外れにオオカミの群れが出まして。不思議なことに家畜や畑に被害はなかったみたいなんですけど、念のために安否確認をね」


(なんだ、オオカミか……昨日の昼間もそんな話を聞いたな)



 ジゼは彼女の話に眉尻を下げ、「それは怖いですね」と心にもない言葉を吐いた。


 そういえば、昨晩エメリナも「怖い音がする」と怯えていた気がする。あれはオオカミの遠吠えのことを言っていたのかもしれない。


 ジゼは思案しながら宿代を支払い、適当に会話を切り上げて外へ出た。

 村の様子は昨日までと変わらずのどかなもので、獣が群れで出たとは思えぬ平穏ぶりである。


 宿屋の女主人は〝家畜も畑も無事だった〟という話をしていたため、被害は特になかったということだろう。



(オオカミねえ……わざわざ群れで山から降りてきたんなら、家畜の一匹ぐらい食い殺しそうなもんだが。いったい何の目的で現れたんだ?)



 顎に手を当てて訝るジゼだが、不意に馬の存在を思い出してハッと顔を上げた。そうだ、アイツの餌も買っておかないと──と考えた時、ふと嫌な想像が脳裏を過ぎる。


 ──餌?


 じわり、背中に冷たい汗が滲んだのが分かった。



(待て……オオカミが群れで出て、家畜を一匹も殺さなかったってことは……すでに腹が満たされていた・・・・・・・・・ってことなんじゃ……)



 嫌な予感ばかりが、重く脈打つ胸を覆う。


 村の外れに出たというオオカミの群れ。一匹も殺されなかったという家畜。

 それはつまり、家畜を殺すほどオオカミたちは腹をすかせていたわけではなかったということだ。


 先に、何かで、腹を満たしている。



「……まずい……っ」



 彼の動揺を気取ったのか、布で隠した鏡面に波紋が浮かぶ。ジゼはすぐさま地を蹴り、自分が馬を繋いでいた場所へ向かって走り出した。


 向かい風を裂き、荒野の砂利を蹴散らして、一直線に駆け抜ける。さほど離れてなどいないはずなのに、やけに距離が遠いと感じた。


 程なくして馬の元へ辿り着いた彼だったが、目の前に広がっていた光景は、ジゼの予測した最悪の想像を容易くなぞってしまう。


 その場に繋いでいた馬は、オオカミによって肉を噛み切られ、無惨に食い殺されていた。



「……馬……」



 動かない亡骸に近付き、その横に力なく膝をついたジゼ。

 ややあって、エメリナも鏡から顔を出す。


 彼女は馬の亡骸を見つけ、慌てて鏡から飛び出してきた。



「……!」



 ぱく、ぱく。

 エメリナは馬に向かって何かを語りかける。


 何の反応も示さない馬に戸惑った彼女は、続いて首からさげた小瓶に泡を込めてジゼに突き出した。



『ジゼ! おさかな、けがしてる! はやく、手当てしてあげて! はやく!』


「……」


『ジゼ、たすけて、ねえ!』


「……手当てしたって、意味ねえよ」


「……?」


「そいつ、もう、死んでる……」



 沈痛に声を落として告げれば、エメリナは更に困惑した様子で、馬とジゼを交互に見遣った。



『……しんでるって、なに?』



 少しの間を置き、問いかけた彼女。

 長らく閉鎖的な空間で過ごしてきたエメリナには、〝死〟そのものが分からないようだ。


 ジゼは一瞬ためらったが、しばらくして重い口を開いた。



「……死ぬってのは、命が終わるってことだ。終わっちまったら、もう動かない。話せない。二度と声が聞けない。一緒にだっていられない。死んじまったら、全部終わり」


『ぜんぶ、おわり? おさかなも?』


「そうだよ、この馬は死んだ。肉が腐って、骨だけになって、土の中で眠る。……もう、会えない」



 酷な現実を伝えるが、エメリナはすべてを咀嚼しきれていないのか、黙ったまま視線を落とす。だが、しばしの沈黙を挟んだのちに、彼女は馬に向かっておもむろに手を伸ばした。


 熱を失って冷たくなった馬。自らの手で初めてその背に触れ、乾いた血で汚れた肌をそっと撫でるエメリナ。


 ジゼは止めることなくその様子を眺め、目を細める。彼の脳裏に蘇っていたのは、数日前に読んだ人魚の生態記録の一節だった。


 ──人魚は不幸な生き物だ。



(認めたくはねえが、その通りだな……)



 他者と分かり合いたくとも、声は届かない。

 他者と触れ合いたくとも、ぬくもりに触れられない。

 彼女は、死んで熱を失った生き物にしか、その手で触れられない。


 あまりに哀れで、不幸な生き物。



「……エメリナ」



 呼びかけるが、彼女は振り返らなかった。地面に座り込む背中はやけに小さく見えて、らしくもない浅はかな考えがよぎる。


 その背に触れて、そっと抱き寄せてあげられたら、なんて。


 ……馬鹿馬鹿しい。



「……もう行くぞ。ずっとそこに座ってても、そいつは返事なんかしない」



 愚かな思考を振り払い、気落ちしているエメリナの背中に語りかければ、彼女は俯きがちに振り返った。

 次いで小瓶のふちに口を当て、ぷくりぷくり、泡を浮かべて閉じ込める。



『ジゼも、いつか、しぬ……?』


「……え」


『ジゼも、いつか、うごかなくなって……エメリナ、ジゼと、あえなくなる……?』



 不安げに問いかけるエメリナ。翡翠の瞳は揺らぎ、今にもあふれてこぼれ落ちてしまいそうだ。



 ──ジゼや。すまない。



 ふと、脳裏にウェインの言葉が過ぎり、ジゼはぞくりと背筋を凍らせる。

 だが震えそうになった唇を強く噛み、嫌な記憶に蓋をして、ひとつの答えを口にした。



「……死んじまったら、もう会えない」



 冷たい風の中で告げ、腰にぶら下げた銀の竪琴に手を触れる。

 壊れ物を扱うような手つきで密やかに竪琴を撫でた彼は、「もう、会えないんだ……」と再度繰り返した。


 ああ、生き物の死なんて、これまで何百と経験したはずなのに。


 いつまでも慣れない。



「だから、生きてるうちに、会わないとだめなんだよ……」



 事切れた馬の屍から目を逸らし、地面を見つめる。すると程なくして、土の上を這いずって近付いてきたエメリナがジゼの視界に潜り込んだ。


 ──くいっ。


 結髪を引っ張られ、自然と目が合う。

 エメリナはジゼの髪を口にくわえ、丸い瞳を潤ませて、彼の双眸を見つめていた。


 他のどこにも手など触れていない。

 それなのに、なぜだか、頭部を撫でられているような錯覚がジゼの心を震わせる。


 そんなわけ、ないのに。



「何だよ、お前……慰めてるつもりか?」



 渇いた笑い声が漏れて、エメラルドの瞳に映る見飽きた顔がいびつに揺らいだ。


 ああ、いつまで経ってもこの顔だ。

 いくら時を経ても終わらない。



 ──化け物。



 あの日、生涯唯一の友人・・が最期に遺した言葉も、それだった。



「エメリナ──」



 お前も、いつか俺をそう呼ぶのだろうか。


 そんな考えが過ぎった時、ジゼの目は彼女の奥に倒れている馬の体を映す。

 そして、彼は明確な違和感を覚えた。



「……?」



 ──おかしい。


 ジゼは眉をひそめて立ち上がる。


 瞳をしばたたくエメリナに構わず馬に近付き、その骸を観察し始めた彼。食い荒らされた無惨な噛み痕ばかりが目立つ屍だが、一箇所だけ、ジゼは異質な傷を視界に捉えていたのだ。


 馬の喉元が、深く切りつけられている。刃物で裂かれたように、すっぱりと。

 獣の爪や牙だけでこんな傷が残るとは思えない。



「なんで、こんな傷が……」



 呟いたと同時に、ジゼの背を悪寒がなぞった。


 なぜオオカミの群れが、村の中の弱い家畜ではなく、暴れて蹴り殺される可能性すらある馬をこぞって襲ったのか──点と点が線で結びついてしまい、危機感が胸にはびこる。


 首元の刃物傷。

 抵抗したり暴れたりしたような形跡はない。


 オオカミが村の家畜より、この馬に群がった理由──。



「……オオカミに襲われる前に、すでに誰かに殺されてたのか……?」


「せーいかい」



 刹那、背後から投げかけられた聞き慣れない声。

 ジゼは目を見開き、すぐさま身の危険を感じて振り返った。


 しかし彼の背後を取った何者かは瞬く間にジゼに掴みかかり、容易く腕を取って捻りあげる。



「いっ……!?」


「はいはい、落ちついて〜。無駄な抵抗はしない方がいいよー、骨ブチ折られたいんだったら別だけど」


「うっ、痛ッ……!」



 関節を逆方向にねじられ、ジゼは表情を歪めて苦鳴を漏らした。横目で睨み上げた先にいる男は、黒い烏を模した仮面で目元を隠している。



(この仮面──祓魔具エクソマギア!? まずい、まさかクロウム騎士団か!?)



 相手が何者なのかを察して焦燥に駆られると同時に、ジゼの耳は何かが引きずられるような音を拾い上げた。ハッと振り返った先では、肩に火傷を負ったエメリナが同じく黒い仮面を被った女に髪を掴まれて震えている。



「──エメリナ!!」


「ふーん、エメリナってんだ、あの人魚。ごめんごめん、わざとじゃねーんだけどさ、肩をポンポンってしたら火傷させちまったの。許してくれよ、ジゼ=カイエル」


「……!」



 久しく本名を告げられ、ジゼの脳裏には更なる警笛が鳴り響いた。


 ──まずい。こいつらは何らかの確信を持って、自分を取り押さえている。


 じわりと手のひらに滲んだ汗を握り込み、ジゼはクロウム騎士団の二人──サリとエマを睨みつけた。「抵抗しない方が身のためですよ」と冷静に警告し、エメリナの髪を掴んだエマはジゼに一歩近づく。



「大人しくご同行願います。吟遊詩人、ジゼ」


「……っ」


「いいえ、こう呼んだ方がいいかしら──遠い昔に捕え損ねた不老不死・・・・の逃亡者、ジゼ=カイエル」



 告げるエマの手の中では、〝逃亡中の危険人物〟という名目でジゼの似顔絵が描かれた、二五〇年前の・・・・・・手配書が揺らいでいたのだった。


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