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「あれ、佳純の友だち?」

「え?」

 ヒロキが示したほうには、先ほど私に声をかけてきた、ハ何とかというインド系の男がいる。

「あ、いや、別に気にしなくていいよ。ちょっと、さっき話しただけだし」

「まあ、でも話したら?」

 ヒロキの隣にもう一人、外国人らしい男性が座った。

「ハーイ、ヒロキ」

「ハーイ、マシュー!」

 知り合いのようだ。日本人なら話せそうだが、明らかに外国人で、ヒロキも英語で話し始めてしまう。これでは話せないので、私は離れることにした。席を立とうとすると、先のインド系がグラスを手に持った。

「カンパーイ」

 あまり気が乗らなかったものの、私は一応、応じた。

「ここ、高いネ。コンビニ、安いネ」

「知ってますけど」

「それ、何回?」

「え?」

 何だろう。

「何……ハイ?」

 ああ、何杯、か。

「まだ1杯めです」

 あまり関わりたいタイプじゃないと判断する。私はそのまま席を立ち、だれか話しかける相手を探す。翔がいれば一番いいけれど、彼はそんなに暇じゃないはずだ。顔が見えない、長身の人物が歩いている。ディメンターだ。私はそれに話しかけに行くことにして、そちらへ進む。だが、男はついてきた。

「こんにちは」

 ディメンターは振り向いた。

「コンニチハ」

 外国人のようだった。発音が少し違う。身長も180センチくらいありそうだった。顔は見えないが、たぶんゲルマン系だ。

「ハリーポッター?」

「イエス、ディメンター」

 やっぱりそうだ。

「よくできてますね」

 本当にそれらしく見える。私は黒い布に触ってみた。さらりとしていた。合成の生地だろう。シルクでもないし、綿でもない。

「ハリーポッター、私も好きです」

 日本語がどこまで通じるか、わからない。でも、先のインド系以外とまともに話もできないのは嫌だった。

「でもディメンター……Ah……Sorry. We ディメンター ※▼%Δ◎」

 無理だ。聞き取れなかった。

「Make sense?」

 意味がわからない。聞こえるのに、なんだか理解できない。首をかしげていると、ディメンターは肩をすくめてしまう。

「意味、わかる、ますか? ……わかり……」

「ごめんなさい、よくわからなくて」

 ディメンターは肩をすくめてしまう。

「Sorry」

 私も謝った。やっぱり翻訳機でも買おうかな。せっかくおもしろい人が目の前にいるのに、残念だ。

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