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「ここ、ドリンク、高いネ。外、コンビニ、アル。そっち、飲んで、くるネ?」

「え?」

 何を言われているのか、よくつかめなかった。

「ここ、ドリンク、600円。下、あっち、150円」

 コンビニとドリンクの値段を比べているようだ。もちろん、コンビニのドリンクは、バーのグラスワインとは違う。それは当たり前であって、別にわざわざ指摘されるようなことではない。グラスという器で提供されていて、サービスがあり、客は場所を利用し、という前提の値段である。

「So……いっしょ、くるネ?」

「ノー、ノー」

 ここの飲みものが高いから、外で飲もうって言ってるんだ。

 確かに、会場のドリンクは、全部600円以上だ。コンビニとは比較にならない。

「ワタシ、信じる、一緒、行くネ?」

 そう言って私の背中を押そうとするので、私はもう一度断った。

「ノー」

 はっきりとそう告げると、彼は肩をすくめた。

「ここ、高いネ……」

 高くても、それは場所代だ。そういう問題じゃない。重要なのは、みんなと一緒に飲めることだ。みんなのコスチュームを楽しむことだ。よく知らない外国人の男性と二人で飲みたいわけじゃない。

 私は首をかしげて奥へ進んだ。だれか他の人と話したほうがいい。さほど進まないうちに、昔の同級生に会った。

「あれ、佳純じゃん?」

「ああ、ヒロキ」

 ヒロキは仕事帰りらしく、特に仮装もせずスーツ姿だった。

「相変わらずなのな」

「ん、まあ」

 相変わらず、というのは、私がパーティーに出ているという意味だろう。一人でいると落ち着かなくて、私は昔からよく人の集まる場所に出入りしていた。

「一人って、あんま好きじゃなくて」

「ワイワイしてるほうがいいって言ってたもんな」

「うん」

 だから東京が好きだ。いろんな人がいて。

「あっち行って座らん? 俺、仕事んときから立ちっぱなしで」

「ああ、そっか。ヒロキ、デパートだったもんね」

 完璧な接客を求められるデパートなんて、立ってるだけでも気疲れしそうだ。疲れている人には配慮しないと。会場の端には、テーブルの席もあるし、ソファだけ置いてある場所も、数ヶ所ある。私たちはソファのところへ向かって歩いた。途中で知り合いに手を振って。

「最近、仕事はどう?」

「うん、私は普段どおり。年配のお客さんと子どもが多いかな。今日、かわいいドラえもんがいたよ」

「へえ。こっちは時計販売だからな。おじさんか若い女性が多いから、全然違うな」

「若い女性いるんだったら、出会いとかは?」

「ああ、いや。きれいな人もいるけど、そんな話ならねぇし」

「そうね」

 店舗では販売が優先。仕事とプライベートは別だ。

「それに、ほら。男もの買う女いるじゃん。プレゼント用に」

「ああ、ありそう」

「きれいな人に限って、そういうの、多いんだよねぇ」

「あはは」

 ありそうな話だな、と思う。

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