銫夜叉(6)

 ユニオン・フライトが目を覚ますと、もう辺りは深夜だった。


 痛む頭を抑え、周囲を見回す。

 ここから見える範囲で焼け野原になっていないところを見るに、ミサイルは無事軌道を変えられ、指定したとおりに海に落ちたようだった。


「……ッあ」


 ピクス・マミーは近くにはいない。

 もしかして、今までの闘いは夢だったのか? そう思えるほどに、澄んだ風が吹いてきて、ユニオン・フライトは思わず苦笑した。


「あ。だ。大丈夫……!?」


 いつの間にかピクス・マミーが、心配そうな顔をして立っていた。


「ごめんね。頭、冷やすものないかなって、近くの川までお水を汲みに行ってた……」


「ケッ、オレ様がこの程度でへばるタマに見えるか?」


 ユニオン・フライトはいつもどおり、精一杯の虚勢を張る。


 それを見たピクス・マミーは、クスっと笑うと、隣に腰掛けてきた。


「いや、ほんとに凄かったよ。ユニオン・フライトが力を振り絞って、こう、力を込めたら、ミサイルがぐあーって明後日の方に飛んで行っちゃった」


「まあな、オレ様を舐めんじゃねェって感じだぜ? 分かったらこれからは敬意を評して『六歌様』って呼べよ」


「ふふ……」


 ピクス・マミーは微笑むと、そのまま草むらに寝転んだ。


「大丈夫? 疲れてない?」


「疲れてねェよ」


「ほんと?」


「当たり前だ」


「ほんとにほんと?」


「……」


 ユニオン・フライトは何も言わずに、ピクス・マミーと同じように草むらに寝転ぶ。


「いや、正直、疲れたわ」


一年ぶりに本音を吐き出してみる。


「オメーのせいで肉、食い損なったんだからな」


「分かってる」


「帰ったら、弁償」


「ふふふふ……」


何が嬉しいのか、ピクス・マミーはニヤニヤし続けている。


「何だよ、気持ち悪ィな……」


「いやあ、六歌ちゃんにもかわいいところがあるなって」


うりうり、と頬を両手で引き伸ばされる。


「ばっ、やめろ! オメー!」


ユニオン・フライトはあっという間に赤面し、ピクス・マミーに飛びかかる。


ペルセウス座が輝く夜更けに、二人のじゃれ合いは、まだまだ続くのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ナイトメア・ディスオーダー 悪求院 @fack91

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ