銫夜叉(5)

 ミサイル発射まであと一分を切った。

 ボタンは手に入れたものの、解除方法が分からない。

 解除方法を知るマリー・ゴールドは自分自身をに変えてしまったため、もう元に戻すことはできない。


 発射まであと三十秒。

 エンジン音が轟き、周囲の木々で羽を休めていた鳥たちが一斉に飛び立つ。


「クソッ!」


 ピクス・マミーが気づいた時には、ユニオン・フライトがミサイルに駆け寄っていた。


「何を……!」


「オレ様の能力でこのミサイルをトばして軌道を変えるんだよッ!」


「そんな! さっきユニオン・フライトは『ヒト二人浮かすのも疲れる』って言ってたじゃん!」


「ア? 忘れちまったなァ、んなこたァ」


 そう言いながら、ユニオン・フライトはミサイルに掴まり、集中を始める。

 ミサイルが熱を帯び始めた。


「……ク、ソ、がああああああああああああああああああ!!」


 ミサイルにレモン色の羽がうっすらと生え始める。


 ――だが、ミサイルはそんなちっぽけな干渉を物ともせず、ただ一直線に動き始める。

 ユニオン・フライトの――合羽六歌たちの思い出の町を目指して。


 ユニオン・フライトは目から、鼻から、口から血を滴らせながらも必死で力をミサイルに注ぐ。

しかし、鳴動を始めたミサイルは、ユニオン・フライトの望む方角へピクリとも動かない。


ユニオン・フライトの脳が焼けそうに痛み、頭が裂けかけた時――。

誰かがそっと彼女の手を握る感触がした。


「大丈夫。私も、ついてる」


ピクス・マミーだった。


その感触は温かくて、優しくて。


ユニオン・フライトの心がふっと軽くなった。

そんな、気がした。

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