見ないふり。知らんぷり。

 きれいな花が咲いていた。

 おいしいケーキを食べた。

 席替えで窓際の真ん中の席になれた。

 当てられた問題をきちんと解けた。

 実験がうまくいった。

 行きの電車で座れた。

 夕飯が好きなメニューだった。


 ことばにするとありきたりで,時間と比べるとあまりにも小さくて一瞬で過ぎてしまうもの。

 それがとてもとてもお気に入りなの。


 そんなものを手放したくないのは当然のことでしょう?

 手のひらにのる小さくてかわいいお気に入りたちを,ポケットも容量も少ない心のポシェットにやさしくそっと詰め込む。ポシェットが閉まらないくらいたくさんたくさん詰め込むの。たくさんあった方がいいに決まっているのだから。


 そんなポシェットを提げながら,くるくるところころと前がはっきり見えない道を進む。両手でポシェットの紐を握っているのは,お気に入りたちを落とさないため。見失わないため。


 後ろも下も見ないの。前だけを見て進む。どんなに霧がかかっていても,その先を見つめる。


 だって,気づかなければいいのだもの。見てなければ,知らなければ,いいことなの。

深くて青い液体はわたしにはいらないから。

いつもぱんぱんのポシェットに入らないでしょ?



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