『ことば』

 ことばは魔法のようだといつも思う。

 もしかしたら,錬金術なのかもしれない。


 ほんの一瞬空気を震わせれば,それは鎖となってつながって,『ことば』となって意味を持つ。意味を持ったそれは,記号となって時をわたる。


 いつだってそばにいて,だけど一番遠くにいて。何もかもが違っても同じ意味を持ち,何もかもが同じでも違う意味を持つ。


 そんなものが鎖のように連なり,がんじがらめに行動を,思考を,視界を縛りつける。

 そこには何もないのにね。


 それは,あまりにも怖くて冷たくて,不愉快にさせるときもある。けれど,それ以上に暖かく心地よい。できるなら,この気持ちを共有したいなんて思ってしまった。


 だから,『ことば』を使って誰かを縛りたいと願った。 

 

 音で,記号で,鎖を繋ぎ,少しずつ少しずつ目の前の誰かを縛っていく。


 わたしはもう縛られてるから。だから,いいと思うの。


 そうすればきっとわたしが存在できるから。なにかが欠けたわたしを満たしてくれるから。


 

 


 


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