26 交差点

 出発してから1時間ほど経った頃。

 ジェイは突然俺たちの枷を外しはじめた。

 

 「おい,ジェイ!」


 その行動に上官は気付き制止の声をあげるもジェイは枷を外した。


 「なあ,レイラー。車を止めてくれないか。」


 車は少しずつ減速していく。


 「レイラーまで!」


 止まったのは大きな道同士が交差する場所。


 「ここなら大丈夫だろ。」


 レイラーはこちらを見ていなかった。


 「こいつらはさっき自分で薬を飲んで消えたんです。」


 そう言いながら,ジェイは扉を開ける。

 上官も何も言わなかった。


 「お前らはさっき自分で薬を飲んで消えたんだ。だから,ここには存在しない。」


 目を合わせずに告げる。


 「消えたものを見ることはできないし,捕まえることも閉じ込めることもできない。」


 「そうだ。さっきお前たちは俺らの目の前で消えたんだ。ご丁寧にガラスの瓶も割ってな。」


 俺はアンの手を掴んで外に出た。裸足で踏んだ地面からは夜の冷たさが伝わってくる。


 背中を押された。3人とも俺らのことは見てなかった。


 「アン,いくぞ。」


 アンが隣でこくりとうなづいたのを見て進むはずではなかった方の道へ走り出した。


 持っているのは,銃でもなければナイフでもない。メスでもなければ,包帯でもない。封のとかれた手紙と首から下がる小瓶だけ。


 後ろは振り返らない。

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