25 やりたいこと

 「私は」


 アンが声を出す。


 「私はもっと外の世界を見てみたい。戦場だけじゃない外の世界を見たい,です。」


 俺たちが本当の『人形』であったなら,ここで声は出せない。なぜなら自分の願望を持たないからだ。でも,


 「俺もです。スペクト,看守が教えてくれた外の世界を自分の目で見たい。」


 その言葉にリュカは笑った。


 「軍人さん。この世界にはもう彼らは存在していないことになっています。だから,」


 逃しませんか。


 上官はその言葉に悩み始めた。


 「上官。自分は賛成です。自分は,彼らをただの人形だと思えない。」


 声を上げたのはジェイだった。


 「だけどな,もう上に報告しただろ。上との相談になる。が,許してはもらえないだろうな。」


 そういったのはレイラーだ。


 「自分も話します。交渉してみないと分からないですよね?」


 リュカは上官に話しかけた。


 「そうだな。軍本部の方々との話次第だな。」


 話がまとまりかけた時にはもう外は暗くなり始めていた。


 「そうだ,その箱荷物になるでしょう?その小瓶,ネックレスになるので首にかけたらどうですか?」


 リュカはそういうと,箱から小瓶を取り出し,俺の首にチェーンをかけた。


 「もちろんあなたもです。箱は置き忘れてしまうかもしれませんから。」


 そう言いながらアンにもチェーンをかける。アンは小瓶を手に取り光に透かす。俺たちに『死』をもたらすとは思えないほど綺麗に見えた。




じゃあ,本部に戻るか。」


 上官がそう立ち上がった。


 「もう暗いですしね。出口までお送りします。」


 リュカも立ち上がり,扉を開ける。

 上官に続いて俺たちも部屋を出た。


 結局リュカは車のそばまでついてきた。


 「今日はありがとう。また軍本部に呼ぶことになると思うが,よろしく頼む。」


 そう声をかけ車に乗ろうとする上官の腕が掴まれた。リュカだ。

  

 「軍人さん。本当に今逃しませんか。これが,彼らが逃げる最後のチャンスだ。」


 「ここでは逃げられないだろう?ここは軍研究施設の中だ。この壁は越えられない。」


 その言葉にリュカは手を離す。


 「連絡お待ちしてます。」


 俺たちも車に乗り込む。


 「出発します。」


 車のライトがつき,照らし出されたのは高い壁。ゆっくりと動き出した車は,その壁の間を通っていった。

 

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