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冬はもう通り過ぎていたらしい。冬の冷たさはいつのまにかなくなっていた。光が柔らかくなったよう気がする。
そして警報が鳴らなくなった。アンがここに来る以前より少なくなっている。それが意味するのは,戦争に勝っていることなのか,負けたことなのか,ここから判断する術はない。
遠くで金属の擦れる音がした。手を伸ばしても届かない窓からではなく,目の前の扉の奥からするそれは、長らく聞いてこなかったその音だ。しかしすぐに違和感を感じる。ここに来るのは新しい看守ぐらいだが,それにしては足音が多すぎる。1人ではない,複数人の足音が少しずつ近づいてくるのだ。
ふと,アンの方を向けば気づいていたらしく扉を一心に見つめ続けている。
看守が増えたのか,『失敗作』が増えたのか,あるいは俺たちの迎えが来たのか。
音はどんどんと近づき,
「扉か。」
そんな声がもう扉のすぐ向こうから聞こえる。
「空いてる。」
そんな声とともに扉は開かれていく。そんなに簡単に開くものなのかと思うほどあっけなく開く扉の向こう側にいたのは。
戦場で何度も何度も血に染めたはずの,敵国の軍服を着た人間だった。
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