幕間 扉の先
清々しいほどの青が空に広がる。
長かった戦争が終わった。相手国が開発した人形兵器,通称人形のせいで苦戦したものの,亡命してきた人形の開発者が開発した薬は彼らを「無」に返すことができるようになった。最大戦力であった彼らがいなくなれば早かった。何年もかかって占領されていった土地をものの2ヶ月ほどで奪い返し,今立っている元敵国の元首都にたどり着き降伏させるまでにかかったのは薬が実用化されてたった半年だった。
自分が今立っているのは,数ヶ月前まで使用されていた軍本部であり,今では戦勝国の軍人たちが戦争犯罪者を明確にするために忙しなく働いている。この軍本部はなかなかに広く,軍規の違反者を入れておく牢屋から兵器開発の研究所までが同じ敷地に立っているらしく,現在も全体の把握はできていない。
今自分がいるのは,石造りの古い建物だ。牢屋として使われていたらしく,鉄格子の中には鎖が繋いであり,赤黒く染まった場所もある。今日は今まで空いていなかった扉の先を調査するらしく上官を先頭に6人で訪れていた。
「なんでここだけ鍵がないんだろうな。」
「何かよっぽど隠したいものでもあるんじゃないですか。」
「人形以上の兵器の設計書とかですかね。」
「それなら鍵はなおさらきちんと保存しておくんじゃないですか。」
扉につけられた鉄格子の先は暗すぎて見えない。
「じゃあ爆破しますよ。」
「建物まで爆破しないようにな。」
爆破音の後に静けさが戻る。扉が吹き飛んでも先はあまりにも黒い。ランプに火をつけると奥はずっと細い道が続いていた。
声を出すこともためらってしまう静寂の中を目を見合わせ進んでいく。所々の壁につけられたオイルランプはずっと使われていなかったようで 燃え尽きた芯が崩れたまま薄く埃をかぶっている。狭い空間に軍靴の音だけが反響する。 しばらく歩くと目が慣れたようで,奥に階段があるのがわかった。
進めば進むほど不安になるような暗さの先には,どんなものが隠されているのか。
上官に倣い階段をゆっくりと降りる。足元を確認しながら進まなければ踏み外しそうな狭い階段だった。手には石の壁の冷たさが染みていく。
「扉か」
上官の声に顔をあげる。そこにはまた扉があった。鉄格子さえない奥の見えない扉。
「空いてる。」
その扉には鍵はかかっていなかった。上官の腕がゆっくりと扉を押していく。
苔の生えた床。
小さく青を切り取る鉄格子。
錆び付いた鎖。
時が止まったような錯覚を覚える。
こちらを射抜く二対の瞳は道に迷った子供のように揺れていた。
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