17 約束
そこからは,いくらたってもスペクトは来なかった。どれくらいたったのかさえもわからない。ただ,あの日よりずっと空気が冷たくなり,外を知らない俺にさえも冬が本当に訪れていることを理解させた。戦況は確実に悪くなっているようで,空襲を告げているのだろう警報音が外が明るくとも暗くとも鳴り響く。
とうの昔に読み終わった新聞は,2人の間に散らかって紙屑と化した。 時間の感覚も無くなった俺たちができることは,ただここに存在し続けることのみ。
そんな中,『またね』に自分はまだざわつかされていた。あるはずのないことに返事しようとした自分がわからない。そんなことを考えている自分も気持ち悪かった。
「ねえ,エル。スペクトとの約束守れるかな?」
理解が出来なかった。
「なに,言ってるんだ。」
声が震えているような気がする。
「スペクトは『またね』って言った。ということは,わたしたちはスペクトに『また会わなきゃ』いけない。そうでしょ?」
人のいうことは絶対だからね。
当たり前とでもいうようにまっすぐに俺を見つめる。
「会えないだろ。」
その視線に耐えられず音を吐き出す。だから,言葉を返せなかったのに。
そう言おうとした。
「そっか。そうだね。」
目が伏せられる。体が強張っていたことに今気づいた。
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