14 文字

  雨が止み,少しずつ地下室の壁や床が乾いてきていた。

 スペクトは雨のやんだ次の日からまた頻繁にきている。だが最近は,新聞を持ってくるようになった。口だけで聞くよりたくさんの情報が手に入る。もう読んだものらしいそれを俺の前に置くと,いつも座っている2人のちょうど真ん中のあたりに腰を下ろした。アンは目で先にどうぞと伝えてくるので,薄っぺらい紙の束に順番に目を通していく。そこに記されているのは自国が勝利を重ねているという良い知らせばかりだった。


「そういや,二人とも字が読めるんだな。」


 アンが新聞から目を離さずに答える。


 「一般教養と呼ばれるものは持ってる。」


 「辺境に行けば文字の読めないアンと同じくらいの子はいっぱいいるよ。」


 その言葉にアンは新聞から目をあげた。最後のページまでめくられているところ見ると,ちょうど読み終わったのだろう。


「わたしは看護をしていたから,薬や名前が読めなきゃ仕事ができない。あと,わたし出来てからたぶん2年も経ってない。」


 その言葉にスペクトがそうだなと少し笑う。


 「人間は教えなければ出来ないことも多いからな。そりゃあ,軍部も人形を積極的に使うわけだ。しかも,人間の2歳はこんな会話できないしな。」


 上の窓から光が差し込み,誰もいないところが明るく照らす。

 俺はその眩しさが見いてられなくなって目を背けた。


「わたしは人間が良かったな。」


  小さな声が聞こえた。

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