12 雨の日

 最近の天気は雨だ。ほとんど陽の光が入らず,常に暗い。昼はまだ周りの様子がうっすらと見えるが,夜になると完全に闇に閉じ込められる。目を凝らそうが光源のない部屋では,認識できるのは暗さだけ。時折吹き込んでくる雨が,顔に当たったり冷たい石をつたい隅の方で水たまりになっていくのをただ聞いている。

 スペクトも雨が降り始めてから来ていなかった。なんの情報も手に入らなくなり,昼夜の境も見えなくなった地下牢では,音だけが響く空間になっていた。

 だが,それは同時に自分がいた場所とも同じなことに気がついた。


 あの場所では,雨は恵みであり敵だった。

 雨が降れば,前に進むことが難しくなる。大人数で有れば尚更だ。光源は少なく,月のない夜になれば一歩も進むことができない闇の中。そっと息を潜め,静かにとどまる。風と雨が顔をなめ,音に支配され,恐怖が隣り合わせの空間に狂っていった人間もいた。

 しかし, 

 俺たちにはあまり関係はなかったが,人が減っていくその様子は見ていて気持ちの良いものではない。


 アンがいるはずなのに,あのときと同じたった1人になってしまったようだ。

 俺は案外,他の人がいる風景になれてしまっていたらしい。


 初めて早く雨が止んで欲しいと思った。

 





 


 

 

 

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