幕間 科学者の実験
「博士,もうすでに準備は整っています。」
狭い研究室の中に声が響いた。
目の前の小さなカプセルの青い液体が応えるようにちゃぽんとなる。
「ああ,わかったよ。」
白衣のポケットにカプセルを突っ込んだ。
部屋から出れば,同じ扉が延々と続く廊下。まだ慣れない施設内を歩いていく。ここに来てから持っている記憶を総動員して作り上げたのは,あの日実体を持ってしまった理論。
それはもうすぐ消えて無くなるだろう。
いくつかの扉を通り過ぎ,空白のプレートがかかった部屋へと入る。薄暗い中で静かに動き続ける機械,それは目一杯の液体が入った大きなボトル。中にはコポコポと音を立て生きようとしている生命が見える。自分が握りしめたカプセルは,“この子を救うためのもの”なのだと,自分に思い込ませてつくったエゴだ。
「ごめん」というその一言を言う権利は僕にはない。
カプセルをそっとボトルの中に入れる。
それは柔らかく溶けて,中の液体が全体へと広がっていく。
ボトルの中に変化が現れた。少しずつ溶けている。論理は少しずつ少しずつ溶けていく。ほのかな明かりに照らされ,青白く光り,淡く優しく広がる様子はあまりにも幻想的で。
ひとつの生命が消えていくようにはとても見えなかった。
また世界は動いてしまうのだろう。
自分の,自分たちの発明で。
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