11 生と死

 「ね。エルとほとんど一緒。」


 また笑った。

 今にも消えてしまいそうな笑顔だった。


 それになにを感じたのか,


 「もう暗くなってきた。俺は帰らないと。じゃあまた。」


 そう言ってスペクトは帰っていった。


 アンの顔も見えなくなった頃,

 唐突に,


 「だからさ,人間っていいなって思うの。」


 そうアンが言った。


 「どういうこと?」


 その問いに対してアンは


 「私は,ずっと人の治療をしていた。生きたいという兵士を助け続けた。皆ね,あったかいの。どんなに指先が冷たくても身体はあったかい。それに比べて自分は冷たい。夏の熱の中にいても,冬の寒さの中にいても。」


 何もいうことができない。


 「あと,生きるのも死ぬのも自分で選べるところがいい。私が殺した彼だって死にたくて死んだの。私たちは,死にたくても死ねないでしょ?ここにいる限りどれくらいの時間をここで過ごすのか分からない。人間なら終わりが見えるけど,私たちには見えないよ。」


 冷たい風が吹いた。

 冬の訪れを告げる刺すような冷たさだった。




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