6 スペクト
僕はこの国の国境沿いの村で育った。
自然に溢れていて,村民のほとんどが農業を残りが近くの森で狩猟をしてたり,作物を売りに隣町へ出かける行商人というのどかな村だった。
村に学校はない。
週に一度だけ来る教会の人にほんの少しの読み書きと計算だけ教わっていた。
小さな生活だったが,幸せだった。
母も父も妹も近所の人たちも,みんなで支え合って生活していた。
ある時,雨ばかり続くようになった。いつもならばこの時期に出る太陽を浴びて作物が育つはずだった。だが,育つはずがない。
その年は,大凶作となった。
食べるものもだんだんと少なくなり,売るものもない小さな村は貧困していった。
教会の人はいつも少しだけ食べ物を分けてくれるがそれもだんだんと少なくなった。
そんな時,教会の人は教えてくれたのだ。
軍人になれば給料が貰えると,そのお金で村に食べ物を買ってあげられるとそう言った。そいつはいつも来る人ではなかったけど、当時の自分にはその言葉はあまりにも魅力的だった。
家族には反対されたけど,必ず帰るからと約束して押し切る形で首都に向かったんだ。
それで僕は軍人になった。
もちろん軍学校からのスタートだったけど,軍部が主導権を握っていたから無償で衣食住が揃い成績が良ければお金だって手に入った。たまにある休暇にそのお金を全部食べ物に変えて村へ持って行った。
少しずつ環境も戻ってきていた。学校を卒業したら,最低軍役だけ終えて村に帰ろうとも思っていた。
しかし,現実はそうはさせてくれなかった。
元々あまり良くなかった隣国との関係が一触即発にまで緊張が高まっていた。
ついに自国は,隣国に宣戦布告した。
軍学校から卒業したばかりの僕たちも,もちろん参加した。
しかし,思ったより隣国の技術が高かったらしく押されてきていた。あと一ヶ月戦線が保てたらいい方というぐらいに。
そんな時,人形と呼ばれる兵器が戦線に投入された。
そう,君たちのような人形だ。
そのおかげで,戦線は押し返せた。
僕たちは人形という新しい兵器とともに戦線を駆け抜けた。
だけどそれは,戦争を長引かせる原因にもなってしまった。
戦場に出てからも家族に手紙を送り続けていた。その手紙は,最初こそ返事が来たもののだんだんと少なくなり途絶えた。
ある日,もう一つの隣国から攻め込まれたという情報を聞いた。そしてその付近の森が戦場になったということも言っていた。
気づいたかい?
そう,僕の村があった森が戦場になっていたんだ。
家族は巻き込まれたらしい。
あのあたりはもう何もないそうだからね。
それからも僕は軍人として戦場に立ち続けた。人形たちと目の前の敵を殺し続けた。
軍学校の仲間たちもいつのまにか随分少なくなっていた。
僕には,もうそれしか出来なかった。
それしかやってこなかったんだから。
だけど,怪我をしたんだ。
銃弾にやられて右腕の関節をね。
基地に戻るともう関節は曲がらなくなっていた。血塗れで関節の使えない僕を負傷兵として本国に送り返した。
手術を受けてギリギリ腕を切るという手段を選ばなくて済んだ。
だけどやっぱり関節は使えなくなっていた。というか,もう感覚もあやふやだ。
そんな僕を,本部は君たちの看守にしたんだ。
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