4 看守

 カンカンカンと一定のリズムで石を叩く音がする。

 それが近づいてくることに気付いて,初めて誰かが階段を降りてきていることを感じ取った。


 「アン。看守がいる間は一言も喋るな。もちろん,俺の名前も呼ぶんじゃない。どうせ,確認だけしてさっさと帰るだろうしな。」


 アンはコクリとうなずき扉を見つめる。


 入ってきたのは見たことのない看守だった。


 「こんにちは。A-481,V-613。今日からこの地下室の看守になった者だ。別に,君たちを傷つけるわけじゃない。むしろ守れって頼まれたからね。安心してくれ。まあ,一番は自分の命だけどね。」


 今までとは明らかに何かが違う看守だ。


 「あれ?人形は喋ることはできなかったのかい?僕が戦場にいた時の奴は喋れたんだけどなあ。どうしようか。」


 アンの瞳が困惑に揺れているのが見える。


 「喋れるよ。で、あんた本当に看守か?」


 俺が声を出すと,看守は笑顔で答える。


 「ああ,本当に看守だよ。ていうか、どっちがA-481でどっちがV-613なんだい?」


 「俺が,A-481。そっちが」

 

 「私が,V-613。」


 喋るなって言ったのに。

 そんな咎めるような目で見ると,同じような目で返された。


 「そうか,じゃあこれからよろしく。2人とも。」


 それからたまにこいつがくるようになった。

 ただ前の看守と同じように最近のことと俺らの確認にやってくる。

 違うのは,もっと詳しく教えてくれることと俺たちを認識してくれること。


 ほんの少し,看守が来る日が楽しみになった。

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