2 失敗作

 「お前は『失敗作』だ。』


 その一言が、今も胸に染み付いている。他と違うことはわかっていた。それでも認めたくなかったのだ。

 『違う』という事実を。







 「なあ」


 ふと、声を出した。


 「なに」


 目もこちらに向けずに答えてくる。


 「何のために開発されたんだ?」


 聞く必要もない問い。

 それでも、聞かなければいけないような気がした。


 「私は、私はコードV-タイプ。軍医の助手や看護師として開発された。」


 少しの沈黙の後,ぽつりぽつりとこぼすように話し始めた。


 「特徴は、痛覚の麻痺と医療技術、そして感情があること。患者に同情し戦場に送り出す、白衣の天使。患者を助けることしか知らないはずの。でも、私は『失敗作』だった。」


 こちらを向いた。

 黒い瞳は、さらに暗く見える。


 「ねぇ、あなたはA-タイプなんでしょう?

なら私と会ったことあるのかも。ずっと前線にいたから。人間も人形も治療していた。」


 まるで何かにすがるように問いかけてきた。


 「俺はずいぶん前からずっとここだ。会ったことはないだろう。」


 「そう、なのね。」


 また俯いた。




 光がだんだんと柔らかくなり、淡くなり、夜の訪れをを告げる。




 少女の姿が見えなくなった頃、唐突にサイレンが鳴り響いた。そしてエンジン音と共に爆発音が聞こえた。

 空襲だ。

 逃げ惑う人々がいるのだろう。燃え盛る家々があるのだろう。



 それさえも懐かしいとさえ思ってしまった。




 「ここでもなるのね。」


 ぼんやりと見えるサーチライトを見上げる少女の瞳は、何か別の場所を見つめているようだ。


 「いや、はじめてだよ。こんなに近くでなるのは。」


 まだ鳴り止まない。


 「彼らはみんな、祖国を守るって言ってた。人形も人間もみんな。」


 その言葉は、ひどく空虚に聞こえた。









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