1 地下室

 薄暗い地下室、所詮罪人の俺はすることもなくただ座っていた。別に出る気もないが、申し訳程度の足枷と窓がわりの鉄格子があるのは知っている。

 だが、それ以外は何も知らない。人が出入りすることなんてほとんどないからだ。


たまに看守がやってきて、存在の確認と外の現状を少し教えてくれる。その程度だ。

 もうどのくらいここにいるのかわからない。光と闇が少しずつ入れ替わっていく様子だけが時間をしれる唯一の方法だが、数えるのは諦めた。雨の日は光がないし、気が狂いそうだったから。


 しかし、この日は違った。

 看守と共に真っ白な少女が現れた。髪は黒く肩くらいの高さで揃えられて、黒い大きな瞳は同じ色のまつ毛に縁取られている。服には、赤黒いシミがあちこちにとんでいる。

 そして、不釣り合いな足枷がカランとなった。


 「A-481。新しい『失敗作』だ。よくしてやれ。」


 そういうと、足枷を少し離れた場所に繋ぎ去っていった。

 繋がれた少女は、へらりと笑い目を閉じた。


 今日は晴れているらしい。少女との間に光が差し込む。


 「なあ、お前の番号は?」


 全く話さない少女に向かって声を掛けた。



 「V-613。」


 感情の色の見えない抑揚のない声で告げた。聞いたことのないコードだったが、少し前に新しくできたのだと聞いたことがあるような気がした。

 沈黙が辺りを包む。

 いつもと同じはずなのに、少し気持ち悪くなった沈黙を破ったのは少女ならぬ、V-613だった。


 「私は、『天使』になりたかった。」


 壁にくっついてそっと小さく吐かれたその言葉は、鉄格子から差し込む光に溶けて消えていった。










俺たちは、実験により造られた『人形』だ。

人に限りなく等しいが、何もなければ何百年も何千年も生きられる。不老不死に近い。

特徴は、設定次第で簡単に強化や洗脳が出来ること。

これに目をつけた軍部は、開発者を取り込み新しい兵器として開発するよう命じた。

そうしてできたのは、コードA-タイプだ。

コードA-の特徴は、痛覚の麻痺と強化された肉体、そして感情がないこと。

殺戮兵器として開発された彼らに、感情など邪魔でしかないのだ。

そして,実験は成功した。

身体が完全に壊れるまで動き続ける人形が完成してしまったのだ。


死ぬことはできないし、殺されもしない。

ここにいる俺は『イレギュラー』。

『失敗作』のサンプルなのだ。

きっと彼女もそうなのだろう。
















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