第7話 ヴァリアント

支配者と人民、神託者を侮辱し蔑み処刑されかけた男はアスティミアの言葉によって解放された。

「貴様!立て」

女帝の威厳のある声に男は俯きながら立ち上がった。

ボーッと、どこか虚な目をしていた。それを見かねた女帝は男の胸ぐらを掴むと30センチほど持ち上げた。

「目を覚ましなさい」

突き放すと剣の鋒を鼻にかすらせて1ミリほどの深さで3センチの長さにわたり皮膚を切り裂いた。

「貴様は本来なら処刑され、晒し首にされていたのだ、アスティミア様の慈悲とはいえ帝国内での此度の悪態、我は貴様の行いは許さん」

今にも殺しそうなくらい鋭く睨み、強い口調で怒鳴りつけ、またしても放り投げられた。

「貴様の命は我が預かる、次、同じようなことをすれば大罪に処す、良いな?」

大男は首を縦に激しく振り、即答した。

「処刑寸前で」

市民の1人が呟くと女帝は釘を刺してきた。

「諸君、この男のようにならぬよう肝に銘じておくよに」

野次馬たちは片膝を立てて頭を下げた。

それから女帝はその場を後にしたが、男が跪いていたところには血溜まりができていた。

「この者に十分な癒しを」

精神的に追い詰めてきた元凶をアスティミアは黙って止血して魔法で治療した。

「いいの何も言わなくて」

それから3人の男たちはそれぞれ帰って行った。

街は以前より少しだけ親切になっていた、商人たちはアスティミアの本当の立場を知ったためか食べ物を渡してくる。

「あのぉ~何か作りましょうか?」

さりげなく聞いてみたところあっさりと折れた。

「私、肉は食べないから」

当然的な結論だ、このエルフはベジタリアンだが本当の理由は違った。

「ここの肉は育てる段階で共食いさせてるから、病気に罹ってしまうの」

予想していた理由とかけ離れていた。

「病気って?」

アスティミアは抜け殻になったように虚な瞳になってボソボソと呟き始めた。

「3人めの女だった、、、贅沢させてあげなきゃって肉を食べさせたんだ、、、そしたら5年後に、歩けなくなって矢継ぎ早に私の事も分からなくなって、目も見えなくなって、、、」

声が次第に小さくなっていった。

「助かった?」

アスティミアは見上げるようにこちらを見てきた。

「いや、亡くなっちゃった」

それからマヨネーズを作り、もらったパンでタマゴサンドイッチを作った。

「卵は?」

食べれるようだった。

アスティミアにタマゴサンドを渡すと物珍しそうに頬張って喉に詰まらせて咽せた。

「あっ」

水を渡すと、胸を叩きながら流し込んだ。

「美味しい」

アスティミアは子供のような笑顔になっていた。

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