第3話 近くの町
翌朝は日の出と共にアスティミアは起きていた。
「おはよう」
満面の笑顔で挨拶をしてくるエルフ、そして顔を赤くなってしまった。
「おはよう」と返すとアスティミアも完全に照れてしまった。
今までこんな事は無かった。朝に女性から挨拶されるとは思わなかった。
「朝ごはんとか無いけど」
この季節でこの状況は想定内だった。
2人で身支度を済ませるなり上着を着て外に出た。
「もう少しだけここに居て、寂しいの」
理由はどうであれ、初めてのお誘いを受けた。
返事は当然「わかった」
お礼すらまともに出来ていない。
もう一度、あの時の笑顔が見たくて堪らなかった。
日も昇り、少しだけ暖かくなった。
「お金とか無いけど、お礼は必ず」
そして2人で町に向かって歩き始めた。
辺りを覆う雪はすっかり溶けてしまった、春のような暖かい陽気、すると突然、アスティミアは手を握ってきた。
暖かくて柔らかい、少しだけ手汗を感じる、緊張している様子だった。
「少しだけ握って欲しい」
生まれて初めて手を握った女性、それもとても可愛いエルフの、同じ年頃の女性だった。
「アスティミアさんは何歳?」
さりげなく年齢を聞いた。
しばらく考えていた、そして答えは「わかんない」
嘘では無さそうだった、隠しているわけでもなく、本当にわからない様子だった。
ボロ小屋を出発して5kmくらいを歩き、ようやく町に着いた。
冬の暖かい日で少しだけ活気のある町、道ゆく人々は、ファンタジーのような獣人などはいない、人間しか居ない。
すると突然「魔物は帰れ」と怒鳴られ、卵を投げつけられた、アスティミアの頭部に命中し、中身が顔に垂れる。
すかさず持っていたハンカチで拭き取ってあげた。
「いいのいつもの事だから」
すると「アスティミア様に何をしやがる」と3人が走ってやってきた。重装備の男、筋肉隆々の男、ローブの男だった。
「貴様ら貴族に歯向かう気か?」
重装備の男は剣を抜いて構えた。
「相手が貴族だからと容赦しないぞ」
するとアスティミアはその男たちの前に立った。
「この状況で暴力では解決しません」
その一言で男たちは下がった。
「貴族に喧嘩を売るとは滑稽ですね、魔物に育てられたくらいですから」
するとアスティミアは走って行った。
後を追うように4人は走って行った。
300mくらい離れた大きな建物の裏の路地に駆け込んだ、そこで膝を抱えて座って項垂れていた。
「申し訳ありません」男たちが口を揃えて言った。
アスティミアはそのまま泣いてしまった、鼻を啜る音だけが聞こえ、誰も何も言えなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます