第13話 初めての戦闘 2
一方その頃、高橋は前を走るマトを追って全力で山中を走っていた。
とらの次に足が速いのは高橋である。
小学生の時からセブンズラグビーに憧れており、セブンズでは特に持久力とスピードが必要とされることを知っていたため、その頃からそれを想定したトレーニングを行なっていたのだった。
中学時代は15人制ラグビーのウイングで、高校に入ってからも昨年までは司令塔であるスタンドオフも経験したが、やはりウイングを多く担当していた。
彼らに追いつけるのは自分しかいないだろう。
ここまで彼らの姿を見ないということは、まだ走っているということか。
何事もないことを祈りつつ、彼は走り続けた。
――ところで先に述べたとおり、7人制のセブンズでは持久力とスピードは非常に重要である。
フィールドは15人制と同じ縦100m×横70m。
そこに入る人数が約半数ということは、1人ひとりの行動範囲が広くなるということだ。
敵を1〜2人もかわせば、独走してトライすることができる。
それだけに守備範囲も広く、自分だけでより多くの役割をこなさなければならないので、ポジションに関わらずオールマイティさを求められるのである。
試合時間は15人制が40分ハーフでハーフタイム10分間なのに対し、セブンズは7分ハーフ。ハーフタイムの2分間を含めても20分以内に試合終了してしまう。
それ故に気を抜いている時間などない。
絶えず駆け回りしばしば鬼ごっこと称されるセブンズは、攻守の入れ替わりも激しくスピーディに展開される。
密集率が低い分直接ぶつかるコンタクトプレーが少なくなり、14分間全力疾走しているようなイメージだ。
そしてそれは、パワー重視の重量級の選手であろうとも同じことなのだ。
速さだけであれば武晴よりも断然とらの方が上のはずである。
だが、技術的な経験値が違うのだと思い知らされた。
常に直線距離を全力疾走しているだけではない。
スピードの切り替え、コース変更などのフェイントが絶妙なのだ。
加えて足元は小さな凸凹と大きな勾配。
武晴は土属性のおかげもあるのかもしれないが、元々の足腰の強さも大きいだろう。なんら苦を感じさせない。
とらは度々足を縺れさせ、スパイクではないが履き慣れたスニーカーでよかったと思った。
デニムパンツも、踊ることを想定してストレッチ素材にしていた。
小鳥は初めこそ武晴の名を呼んでいたが、今や小脇に抱えられた体が力なく脚をぶらぶらとさせている。
武晴のあのパワーで絞められて潰されてしまわないかと、見ていてハラハラした。
自分のやや後ろを走る小出と連携して、片方が武晴にタックルをし、もう一方が小鳥を救い出すのが最良だと思うが、その場合タックルをするのは小出となる。
とらはただでさえ軽量な上、ラグビーに関しては初心者だ。
武晴相手に成功できるとは思えない。
だが、小出の位置からではタックルするにはまだ遠く、さらに少しずつ引き離されてきていた。
一か八か自分でタックルしてみようか。
成功すれば少しでも足止めになるかもしれないし、武晴も正気に戻るかもしれない。
ただ、失敗すれば倒れた時間のロスは大きい。
部活中にもよく先輩から聞かされた。
タックルに失敗して倒れている間にも、味方を1人失った状態で試合はスピード展開していくのだと。
倒れても瞬時に起き上がって走り出す練習をしてはいるが、それでもロスは免れないだろう。
それならばいっそ追い越して進路を塞ぐというのはどうだろうか。
とらがさらにスピードを上げようとしたその時、背後から小出の力強い声が響いてきた。
「ゆけ!フェニックス!!武晴さんを止めて春日野さんを救い出せ!!」
いつの間にそんな技を!?を驚いて振り返ると、えらくカッコ良さげなポーズをとった小出がいるだけで、フェニックスの気配など毛頭なかった。
「ぐぬぬ。くそう!ではこれではどうだ。ファイヤー・アロー!!」
とらは後ろに気を取られている間に武晴に離されていることに気が付き、慌ててスピードを上げた。
その間にも、後ろから次々と必殺技を繰り出す風な声が聞こえる。
「ファイヤー・ボール!!」
「ファイヤー・ウェーブ!!」
「ファイヤー・アターック!!」
何ら変化も起こらず小出の声だけが響いていたが、少し間を置いて、やや疲れた声で呟いた。
「――これだけは使いたくなかったが…、ファイヤー・ニードル!!」
やっと放たれた火の針が、武晴目掛けて飛んでいく。
そして武晴の剥き出しの首や腕に命中したが、あまりにか細いその針は、強靭な肉体と防御力の前には蚊に刺されたほどの威力もなかった。
「あーもーくそーーっ!とら!!お前も武晴さんに魔法使えよ。
小出の台詞にとらはギョッとした。
後から治せるからいいというものではない。
「尊敬する先輩にそんなひどいこと出来ません!!!」
とらの嘘偽りのない叫びに、先程とらから鎌鼬で傷付けられた小出は心に大きなダメージを受けた。
思わず失速しかけたが、持ち前の打たれ強さで持ち直す。
しぶとい、鈍い、図々しい…色々言われるが、スポーツマンはそれぐらいでちょうどいいのだと開き直って、小出はトップスピードに切り替えた。
「
突如前方に雷が落ちたのが見えた。
小さなものだったし離れていたので被害はなかったが、武晴は進行方向を大きく右に変えた。
枯れ木の立ち並ぶ場所へと向かっていく。
とらは、直接攻撃はしないにしても少し驚かせてみるのはいいかもしれないと思った。
武晴に当たらない程度距離を置いた所目掛けて鎌鼬を放つ。
しかしそれによって周囲の木や前方の何かに当たってダメージを与えたことが分かったが、武晴には影響を与えることは出来なかった。
もっと何か、傷を付けずに直接足止めする方法はないか。
とらがそんな思いに意識を集中させていると、自分の意思と繋がったように風が変わった。
足元に吹く風が渦を作り、武晴の足を捕らえるように絡まったのだ。
それと同時に、隣から小出も飛び出した。
「うおりゃたぁーーーっ!!!」
武晴の下半身にしっかりと組み付く。
足を風に捕らえられている武晴は、これにはさすがに耐えきれずに前方へ倒れ込んでいく。
――タックルで倒された者はボールを持ち続けると反則になる。
武晴の身に染みついているラグビーのルール。
その時聞こえたのは、馴染み深い声だった。
「武晴!パスだ。パスをだせ!!」
横を見れば信頼できる仲間の姿。
武晴は倒れてしまうより前に、高橋の方へ小鳥を放った。
「ナイスパス…」
高橋は小鳥をしっかりと受け止めて尻もちをついた。
ぐったりとして青い顔をしている小鳥の頬をそっと手で触れると、冷たくはなっているが呼吸が普通に行われているのが分かってほっとした。
「高橋さん!」
「よう」
「さっきの雷、もしかして高橋さんですか?」
「ああ。間に合ってよかったよ」
高橋は、途中から己の通常のスピードを遥かに超えて走っていた。
とら同様に
倒れた際に地面に額をぶつけた武晴は、ようやく正気を取り戻すことが出来た。
いや。
正確にいうと地面ではない。
武晴は何かの上に乗っている。
それは武晴の下敷きになってペシャンコになってしまっているが、それだけでなく切り刻まれた翅と焦げたような痕があった。
細い胴体と半透明の4枚の翅を持ちトンボのような姿をしている生物。
おそらくもう生きてはいない。
虫?とはいえ、自分の行動がひとつの命を奪ってしまったことに武晴は罪悪感を覚えた。
記憶が朧げで詳細は不明が、状況から何かしでかしてしまったということは分かる。
落ち込んでいる武晴に、マトが擦り寄ってきた。
指先で擽ぐると少し気持ちが和らぐ。
マトは気持ち良さそうに撫でられた後は、鼻をスンスンと鳴らして横たわる朽木の向こうへ駆けていった。
「なんか…迷惑を掛けたようだが…」
戸惑いつつ言葉を発する武晴に高橋が答えようとした時、奥の方から声が聞こえた。
「マト!?なんでここに…!?」
その声に続いて姿を現したのは、もう1時間以上前から行方をくらませていたニノスだった。
服は汚れ、体にも小さな傷がたくさん付いているのが見て取れる。
彼は状況を確認するように周囲を見渡した後、武晴のところで視線を止めた。
「勇者様が倒してくださったのですね!」
◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇
【現レベル・習得魔法・特殊
Lv. 6
無属性
習得魔法:
特殊
Lv. 7
土属性
習得魔法:造成、
特殊
Lv. 5
火属性
習得魔法:火針、小火球
特殊
Lv. 7
風属性
習得魔法:
特殊
Lv. 13
無属性
習得魔法:
特殊
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