第12話 初めての戦闘 1-2
「アイツ、もしかしてちゃんと見えてない?」
あの距離であの命中率の低さは、コントロールの悪さだけに起因するものではない気がする。
普段地中で暮らす生物ならあり得ることだ。
明暗だけで識別しているとしたら――?
佐田は魔物の7つの目のすぐ前に
やはり推測どおり、魔物は目標の所在が分からなくなったとみえて、驚いたように動くのを止めた。
それを見て東堂がすかさず麻痺で魔物の動きを封じる。
「じゃ。岸、お願い」
「あ、はい」
先程と同様に大顎目掛けて水を降らせるが、しばらくすると、徐々に雨が上がっていくようにそれは止んでしまった。
「MP切れか」
「魔物の方は、あとどれくらいHP残ってるんですか?」
「まだ半分以上あるな。防御力は低いくせに…。あー、これは長期戦かなあ」
「えーマジー?」
東堂の呟きが聞こえた佐田が不満の声を上げる。
――この先輩2人のやり取りを聞いていると、岸には
「ダッシュ追加らしいですよ」
「えー」
くらいのノリにしか聞こえなかった。
小出がいたらそれはそれで無駄に事が大きくなって面倒くさくなる気がしたが、この2人の危機感の無さもどうしたものなのか。
自分はこちらのグループにいてよかったのかと不安になる。
岸の中での常識人である高橋と武晴に会いたくなってきた。
会いたいと言えば、小鳥のことも心配だ。
「あ。麻痺時間切れです。また動きます」
「了解」
MP切れと共に気力も切れていた岸は、遠くへと飛ばしていた意識を東堂の声で呼び戻された。
魔物の視界を、佐田が再び灯光を使って妨げている。
ところが、今回は大人しくはしてくれず、滅多矢鱈に周囲に砂を飛ばしはじめた。
半分砂に埋まったリャリャが、上からも砂を浴びて悲鳴を上げるように嘶く。
その声でリャリャの居場所を突き止めた魔物が、先端に液体を溜めた大顎をリャリャの巨躯に突き立てようとした。
「やば」
さすがの佐田も焦って樹の枝からリャリャ目掛けて飛び降りた。
リャリャと魔物の間に入った佐田は、右腕で大顎を受け止め、右側に体重を掛けて腕を大きく回しながら力を流し進行を変えた。
その際、大顎のギザギザ部分が掠って傷を作り、魔物が滴らせていた液体が傷口に掛かった。
「うわ、何これ」
これは岸が注ぎ込んだ水ではなく、魔物の体内から吐き出されたもののようだ。
例えようのない不快感がある。
嫌そうに顔を歪める佐田に対し、どことなく満足気な様子の魔物が腹立たしい。
魔物はすでに勝利を確信したようだ。
トドメとばかりに大きく開いた顎が佐田を挟もうとして閉じかけるのが視界に入ると、俊敏にそれを躱して勢いよく頭部を蹴り上げた。
「あーもう、いい加減気持ち悪いんだよ!」
大きな体が仰向けに倒れるのも待ち切れないとばかりに、顕になった魔物の腹も佐田は思い切り蹴とばした。
「ん?」
「あれ?」
驚いたように2人が大きく目を見開いている。
「え?どうしたんですか?」
岸は訝しがっていたが、魔物の状態を見て理解した。
魔物の巨体に見合わない細い6本の足が、足掻いて虚しく空を切っている。
つまり、自力で起き上がれないのだ。
「コイツ腹
調子付いた佐田が立て続けに腹部を蹴っている。
「HPがみるみる減っていってるな。水浴びせた時の比じゃない」
「…それって要するに、直接攻撃に弱いってこと…?あーっ!なんかムカついてきた!俺も蹴る!!」
ドシドシと歩き出した岸が振り返る。
「東堂さんも蹴りませんか?」
「いや、俺虫は全然平気な方じゃないから。無理」
それから佐田と岸は思う存分魔物を蹴り続けた。
程よい弾力の腹は蹴り心地がいい。
途中からキックの練習になっていたようにも見えた。
「終了です。お疲れ様っしたー」
「よーし初戦勝ったぞーっ!」
「っしゃー!」
東堂が敵の命が尽きた旨を告げると、佐田と岸は勝利宣言して拳を天に突き上げた。
「あ、佐田さん。その腕の傷、猛毒が入ってるから早めに治した方がいいですよ」
「え、マジ?」
さっき付いた気持ちの悪い液体か。
「そういや俺毒に強いんだっけ」
「強いっていうか、鈍いっていうか、気付くのが遅い感じですね」
「嘘だよ“遅効性”だろ。俺ちゃんと覚えてるんだからな」
佐田は自分の腕に治癒魔法を使いながら、「
よく分からない環境にモヤモヤしていたし、そもそも体育会系の彼らだ。
じっとしているより体を動かす方が性に合っている。
魔物に八つ当たりして思い切り蹴って鬱憤を晴らしたら、結構スッキリした。
しかし可哀想なのはリャリャだ。
理不尽な状況に目に涙を溜め、助けを求めるように彼らを見てくる。
「皆が戻ってくるまで待つ――のは可哀想だよねえ」
リャリャの周りの砂を払って、少しでも体が出るようにしてやる。
荷車もひとまずリャリャから外した。
足元の砂はもう流れてはいない。
魔力で操作されたものだったのだろう。
足場も思ったよりしっかりとしていて、踏ん張りも利きそうだ。
リャリャの胴体はほぼ砂から出てきている。
あとはこの巨体を起き上がらせてやることさえ出来れば、自分でなんとか抜け出せるのではないか。
「よーし。やるぞー」
佐田と東堂が肩や腕周りのストレッチを始めた。
しっかり筋肉が付いてはいるが、どちらかというと細身の2人だ。
対して岸は、1年生とはいえ、中学時代からラグビー部でプロップとしてスクラムを組む重量級のポジションにいた。
現在も暫定だがプロップである。
岸は不安を口には出さなかったが、2人を見る目で気持ちが伝わったのだろう。
佐田が笑って言った。
「俺、去年一昨年とプロップもちょっとやってたんだよ」
「俺も去年ちょっとな」
「え。そーなんすか?」
「桑原先生、全員どのポジションも対応できるようやらせられるから、覚悟しといて。
――岸は、中学で15人制やってたんだろ?」
「はい」
「知ってるとは思うけど、セブンズは全員にオールマイティを求められるから」
「――はい!」
ここでスクラム組んでみるのも悪くないとも思ったが、砂上に横たわる馬の体を起こすには不向きに違いない。
腰を落としてリャリャの胴体の下に手を差し込み、一斉に力を込めた。
「せーのっ!!」
◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇
【現レベル・習得魔法・特殊
Lv. 6
光属性
習得魔法:治癒、
特殊
Lv. ???
闇属性
魔法:暗幕、毒、麻痺、???
特殊
Lv. 5
水属性
習得魔法:
特殊
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