第14話 魔物の話と魔王の話
荷馬車のある元の場所へ戻る道すがら、感極まった様子のニノスから何度も感謝の言葉を述べられ、それで大体の状況は分かった。
「最近あの辺りにウス・ラ・ヴァ・カゲーロの幼生リャー・ジ・ゴックが巣を作っているという話を聞いていたんです。――いえ、これまでこの国に魔物なんて出なかったんですがね。この山の向こうはエタナリカ共和国との
荷馬車が先へ進まないことから、不安な箇所があったことを思い出して見に行くと、案の定そこにウス・ラ・ヴァ・カゲーロがいて捕まったのだと言う。
「もう駄目だと思った時にウス・ラ・ヴァ・カゲーロが突然雷に打たれたようになったので、その隙に離れて木の陰に隠れたのです」
その後続けて目に見えない何かが翅を切り刻み、何がなんだか分からないでいるところへマトが現れた。
「勇者様達のお姿を目にした時のあの感動は忘れません!」
ニノスの中では、勇者様達が自分を心配して助けにきてくれたことになっている。
それについては敢えて誰も否定はしないでおいた。
あれからすぐに意識を取り戻した小鳥は乗り物酔いのような状態になっていたが、本人の希望で自分で歩いて戻った。
佐田達の待っている場所へは、10分と掛からず着くことが出来た。
「あれだけ走ったのに、これだけしか移動してなかったのか」
まんまとウス・ラ・ヴァ・カゲーロの魔術に取り込まれていたようだ。
だが、そのおかげでウス・ラ・ヴァ・カゲーロとニノスの所へ誘い込まれ辿り着けたとも言える。
そして戻ってきた場所には、倒されたウス・ラ・ヴァ・カゲーロの幼生リャー・ジ・ゴックがひっくり返った姿で絶命していた。
リャリャも無事な様子で、佐田にべったりとくっ付いている。
このリャリャはロザリーンという名で、雌なのだそうだ。
それから、岸がもう随分と離れていたかのように、高橋と武晴の帰りを大喜びで迎えてくれたのだった。
佐田がニノスの傷を癒した後は、ようやくまた全員荷馬車に乗り込み、城へと向かった。
「俺しか治癒魔法使えないっていうの、やっぱ不便だよ。祐真、無属性なんだから習得してくれない?」
「――前向きに考えておく」
佐田の要望に高橋は曖昧に答えた。
自分だって治癒魔法を使えればいいとは思うが、どうも魔法はランダムで習得していっているような感じがする。
いつ習得できるのか、そもそも習得することができるのかは疑問だった。
「あたしも無属性だから習得できるといいんだけど…」
「俺も小鳥さんに治癒してもらいたいっす!」
「だよなー」
「あ、俺も」
「それで皆小鳥に治してもらってたら、小鳥のMPがすぐ無くなっちまうんじゃないか」
高橋は冗談のつもりで言ったが、言ってすぐに「それはいいかも」と思った。
治癒魔法でMPが枯渇すれば、
誰も口には出さなかったが、皆同じことを考えていた。
「それにしても、武晴が小鳥連れてっちゃった時はもうどうしようかと思ったよ」
しみじみと佐田が口にすると、小出が経験者として熱く語った。
「あれマジでスゴいんすよ!!突然意識が制御できなくなるっていうか、ほんと訳分かんなくなるです!なんかスゲーいい気持ちになってたってことだけは覚えてるんだけど、あとは
「うわ。怖。結局今のところ
「危機管理能力は知りませんが、2人共精神攻撃耐性が高いっていうのはあるかもしれないですね。あと魔法攻撃耐性も。――ちなみに武晴さんは精神攻撃耐性
「ゼロ!?いっそ潔いな、それ!」
「俺は?俺はどんくらい?」
小出が気になって東堂に訊くと、心底面倒くさそうに答えられた。
「1だ」
「1!?何点満点中の1?」
「…佐田さんが100で、お前が1」
「小出!往生際が悪すぎ!!それなら武晴の0の方が清々しいって」
東堂の向こう隣で、佐田が腹を抱えて爆笑していた。
城へ着いたのは、日が暮れる前だった。
出迎えてくれたのは魔法騎士団団長リズト=ナザンだった。
まだ20代前半に見えるが、年齢に見合わず落ち着いた物腰をしていた。
ニノスは彼に道中で魔物に出会し、勇者様達に助けてもらったことを説明した後、恭しく小鳥をナザンに紹介した。
そのニノスの態度からナザンも小鳥の地位を察し、膝を折って失礼のないよう丁寧に挨拶をした。
「お会いできて、誠に喜ばしく存じます」
「お願いですから、そんなに畏まらないでみんなと同じようにしてください」
偉ぶった様子のない謙虚な小鳥にナザンは感銘を受け、小鳥はというと誤解の元凶である小出をうらみがましい目で
その後、ニノスとリャリャはナザンから渡された護り石を身に付けて神殿へと戻った。
砂塗れになっていた勇者一行は勧められるまま風呂へと入り、用意された衣服に着替えた。
男子達に用意されたのは騎士の着るような服だったが、小鳥には過去の王女様がお召しになっていたという床を引きずるようなドレスを着せられた。
晩餐の料理は決して多くはなかったが、精一杯のもてなしをしてくれていることは分かった。
だが、いつまで経っても肝心の国王陛下は現れない。
不審がっていると、宰相のメロン=ドイルが部下から何事かを耳打ちされ、大きくため息をついた。
この宰相は、神殿の最高神祇官より少し若めの品の良さそうな男だ。
現在この広間にいるのは、召喚された8人以外では、宰相ドイルと、ウルバ=ドゥ=ドナールという明らかに他の者達と毛色の違う男だけだった。
「誠に恐縮にござりまするが、陛下とのご面会は明日にお願いしたく存じます」
ドイルはすまなそうに眉間に皺を寄せて言った。
ドイルにとってもそれは不本意なことのようだ。
「陛下は御年129歳。かなりのご高齢であらせられます。起きていらっしゃるお時間が極端に短いのですよ。それでも日の高いお時間ですとお話もできましょうが、夕刻を過ぎると、なかなか…。勇者様には一刻も早く陛下の御言葉を受け、世界を救う旅に出ていただきたいのですが…」
そう言って、無念そうに首を振った。
国王陛下の件も確かに気になったが、それよりも旅に出るという話の方が気になった。
高橋が他のメンバーの顔を見ると皆同じ気持ちのようだったので、そのまま疑問をぶつけることにした。
「俺達は世界を救うために召喚されたとしか聞いていないので、具体的に何をすればいいのか分かっていないのですが、旅に出て、何かしなければならないことが決まっているということでしょうか?」
「魔王だ。魔王を倒すんだ!」
高橋の質問に横入りするように、ウルバ=ドゥ=ドナールとやらが答えた。
背が低く、鼻の下に髭を生やした男だ。
「ウルバ殿」
ドイルはウルバを宥め、改めて高橋の質問に答えた。
「白き国から遠く離れた地に、魔王の住まう
「ということは、今起こってる天変地異は魔王の仕業ということですか?」
佐田が気になって尋ねた。
「確証はございませんが、おそらく間違いないでしょう」
「逆恨みだ!奴は20年前の復讐をしてきているんだ!あの時殺せていればこんなことにならなかった!今度こそ、確実に殺してしまえ――!!」
唾を飛ばしてヒートアップするウルバの話は、的を得ないが聞き逃せない内容だった。
「どういうことですか?20年前に何があったんですか?」
ドイルはウルバに邪魔をされぬよう丁重にお願いする形で注意をしてから、20年前にあった出来事を話しはじめた。
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